小鳥遊さんのような人について

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大豆田とわ子と三人の元夫』のベスト助演賞はナレーションを務めた伊藤沙莉だと思っているのですが、おっと待てよ、伊藤沙莉と言えばぼくの大好きなドラマ『女王の教室』(2005年、日テレ)にも出演していたではないか、なんて話はさておき、物語後半で絶妙な存在感を示したオダギリジョー演じる小鳥遊(たかなし)さん、全体のストーリーの中ですごく良いアクセントになっていましたね。

小鳥遊さんが登場する少し前に、仕事と私生活を混同させてしまう困った経営者が登場していましたが、小鳥遊さんはその真逆な存在で見事な対比関係になっており、仕事とプライベートを完璧に別人格として行動する人でした。それぞれのモードの時はもう片方のモードでの記憶も人間関係もまったく頭の中に無いかのごとく、かつ、それを悪びれるわけでもなく、プライベートで惹かれあう大豆田とわ子に対してビジネスの場では非情で冷徹な態度をとるのが小鳥遊さんという人物でした。

 

こんな極端な公私分断をする人間なんているんだろかと半ば笑いながらドラマを観ていたのですが、よくよく記憶を掘り起こしてみると、ぼくの場合、少なくとも2人はこのタイプの同僚と仕事をしたことがありました。プライベートで会ったり話したりするときはとても穏やかで人あたりも柔らかくユーモアにあふれいっしょにいて愉快な人なのですが、ひとたび仕事の場になると絶対こんな人とは仕事したくないと思えるほど強権的で高圧的でハラスメントな態度をとりたびたびぼくを攻撃の標的にすることもある、そんな人でした。どちらのモードのときも同じ人間ではあるので、その人のことをどう受け止めればいいのかとても悩ましいのですが、最終的にはプライベートでのその人のことがとても好きなので、ぼくの中では仕事の時のこの人は別人格、と割り切って、プライベートのその人のことをその人の「本体」として受け入れています。ドラマでも結局そうなっていたんじゃないかと思います。

 

そういう意味で、人ってほんと複雑ですね。ぼく自身は仕事モードと私生活モードをスイッチを切り替えながら過ごしていますが、人格までは変わらないと(自分では)思っています。今回のドラマでは、小鳥遊さんと公私混同さんの両方を登場させ「あなたならどっちを選ぶ?」と脚本家から問われているように感じましたが、前述したように、(プライベートモードでのその人の性格にもよりますが)ぼくなら小鳥遊さんを選ぶかなあ、といったところです。

 

ちなみに同じ脚本家の過去の作品で言うと、最近では主演(松たか子)が同じ『カルテット』が一推しです。『大豆田十和子…』もおもしろいのですが、セリフが多くて息つく間もない密度の高い展開が続くのに対し、『カルテット』は適度な抑揚や息継ぎの場があって、リラックスして緊張感と笑いと伏線回収を楽しめるドラマでした。