『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』は初夢のようである

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村上春樹のファンというわけでは全くなくて、読んだことのある作品といえば学生時代に流行った『ノルウェイの森』と、何かがきっかけで(そのきっかけが思い出せない!)手に取った『海辺のカフカ』だけというぼくが、そのタイトル(だけ)に興味を引かれて十数年前から読もう読もうと思いつつ、文庫本の上巻を何度も買い直して読み始めては途中で挫折、を繰り返していた『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』。そんな同書が昨年末に待望の(?)Kindle化されたことを機に、再度気持ちを入れ直して年末年始を挟んで一気に最後まで読み切りました。ちなみにこれと同じパターンでいまだ完読できていない本は筒井康隆の『虚構船団』です。

 

『世界の終り…』はもう35年も前の作品なのでいまさら読後感も何もないとは思うのですが、同書で描かれるパラレルワールドの構造はSF的になかなかうまくできています。また、登場人物もみな個性的で、タランティーノ的なハチャメチャなキャストも多く出演してきます。とはいえ、余韻を残すといえば聞こえはいいですが「結末」まで描き切っていないと感じるクロージングは、村上春樹特有のやや冗長な、時間進行がゆったりしている長編を読み切った後に個人的にはモヤモヤ感が残ってしまいスッキリしません。

 

でもこれが村上春樹ワールドなのでしょうか。小道具にこだわり、テンポを落としてでも昭和的オシャレな言い回しを駆使する世界観 — 作品ごとの世界観ではなく、作家・村上春樹の作品に共通の独特の世界観 — がどの著作にも土台として存在する、という、木村拓哉はどんな作品でも木村拓哉であることと同様のことが言えるのかな。その村上春樹ワールドにハマる人にはじっくり味わえる作品なのかもしれません。

 

作品中最後の部分で描かれなかったストーリーは、<以下ネタバレ>「世界の終わり」を脱出した「影」は現実世界の宿主である「私」の心に戻り「私」は永遠の眠りを回避し、「私」の意識下に住む「ぼく」は心を消し去りきれずに図書館の女と共に永遠に森に住むことになる。ある種ハッピーエンドというか、パラレルワールドをうまくまとめたな、といったところなのですがこれはあくまでぼくの予想であります。

 

読み切ったー!という個人的達成感はあるものの、モヤモヤを残した作品。何だか初夢みたいな物語でした。おしまい。