網羅的に宇宙ビジネスを知る ~『宇宙ビジネスの衝撃』

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動きの激しいテクノロジーが関わる領域を語るにはやや古い(約2年前)本とも言えますが、「宇宙ビジネスとは」と聞かれて宇宙旅行ぐらいしかイメージできないぼくのような人間にとっては、地球をめぐる比較的近くの宇宙で今(と言っても2年前の時点の、ですが)何が起きているのか、そしてそこに横たわる広大なビジネスの機会とはどんなものがあるのか、といったことについて網羅的に知っておくにはちょうど良い本だと思います。「衝撃」というほどインパクトがある、煽るような文体ではありませんが、宇宙ビジネスの中の人が書いたものとして、現実に起きていることや今後期待されることについて基本的な知識を得ることができます。

 

そもそも宇宙ビジネスって、何が魅力なの?と空を見上げながら首をかしげている人がいたら、こんな状況を想像してもらうといいと思います。仮に、仮にですよ(そんなことは現実にはあり得ないことは百も承知で)、太平洋の真ん中にアメリカ大陸ほどのまったくの未開の地が見つかったとします。そこは雲や霧に包まれていてかつ磁場も乱れており船や飛行機ではたどり着くことのできない場所だと想像してください。地球が生まれてこの方人類が足を踏み入れたことがない場所ですから、絶景の地があるかもしれないし、見たこともない資源があるかもしれないし、その特殊な場の性質から新たな素材開発に役立つ土地かもしれないし、とにかくたくさんの可能性を秘めていることが予想できます。そこへ世界中の先見の明を持つ人々が手を伸ばし、開拓していく過程で、様々な関連ビジネスが生まれてくることも予見できると思います。そこまでイメージできたら、その大陸をぐーっと空の彼方へ持ち上げてみましょう、そう、宇宙空間まで持ち上げてみるのです。そこには空気はありません。重力もありません。地上からロケットを飛ばすより月や近隣(といってもかなり距離はありますが)の火星などの惑星へも行きやすい場である一方、地球が俯瞰的によーく見えます。ここで何かをやってみよう!と思う人が集まるのは必然ですね。それがまさに「宇宙ビジネス」なのです。

 

ぼくはIT業界に身を置いているのでなおさらなのですが、IT業界の名だたる面々がこぞって宇宙に莫大な投資を20年以上も前から続けているという事実を知るにつけ、宇宙ビジネスというものがよりリアルなものに見えてきます。テスラのイーロン・マスクやアマゾンのジェフ・ベゾスマイクロソフト創始者であるビル・ゲイツポール・アレン(残念ながら亡くなってしまいましたね)、はたまたアップルやフェイスブック、グーグルらも宇宙ビジネスへ多大な投資をしています。もちろん、日本からはソフトバンクの孫さんやホリエモンなど、ITにゆかりある人々が宇宙ビジネスに真剣になっているのは、上記のたとえ話で触れたように、テクノロジーとしてもビジネスとしても無限の可能性があるからです。その可能性って何?を現実に起こっていることとして網羅的にまとめたのが本書です。イーロン・マスクジェフ・ベゾス宇宙旅行や宇宙との行き来に大きな夢をもって資金を注ぎ込んでいますが、グーグルやフェイスブックなどが宇宙に投資するのは彼らの「地上での」ビジネスの拡張なんだ、といった背景についても知ることができます。

 

「宇宙」って意外と地表から近いところ(100kmも上昇すればそこは「低宇宙」です -- ジェット旅客機が飛んでいる高さの10倍程度。100kmって、東京から沼津や宇都宮程度の距離ですよ)から始まってるんだな、とか、人工衛星ってもっと遠くを回ってるのかと思ったら低いところを飛んでるのもあるんだなとか、国際宇宙ステーションって遠くの宇宙空間に浮かんでるのかと思いきや、意外と低いところ(地上約400km。東京からだと神戸くらいです。地球儀で考えてみればわかりますが思っていたよりだいぶ地表に近いですよね)に位置しているんだなとか、自分の中の勝手な常識を覆してくれたりもします。宇宙のような「高いところ」からしか取れない情報がビッグデータとなりそれ自体がビジネスになったり、地上にない素材を宇宙に求めるビジネス、あるいは、無重力空間が医療ビジネスの可能性を広げたりなど、いい意味で浅く広く宇宙ビジネスをカバーしてくれている、そんな基本情報を与えてくれる本です。

 

 

宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ

宇宙ビジネスの衝撃――21世紀の黄金をめぐる新時代のゴールドラッシュ

  • 作者:大貫 美鈴
  • 発売日: 2018/05/10
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)