『「あなたの知らない」マーケティング大原則』について

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劇薬の仕事術』の著者であり日本マクドナルドをはじめ数々の企業のマーケティング責任者を務めてこられた足立光氏の共著ということで『「あなたの知らない」マーケティング大原則』を読んでみました。

 

同書は、マーケティングを基礎から学ぶ本というよりも、企業のマーケティング従事者向けの実践ノウハウ本です。マーケティングを教科書で勉強して来たけれども日々のマーケティング活動のポイントポイントで判断に困っている人や、ちゃんと考えて実行しているはずなのに結果が伴わないことに悩みを持っている人に贈る、「あなたの知らない」TIPS本、という立て付けです。幅広い商材を扱ってきた豊富な経験を基にした実用的な内容なので、網羅的ではあるものの、本の構成という点から見るとエッセイ集風で系統立っていない印象です。プロローグで「必要な部分だけ、ご自身が困っている部分だけを抜き読みしてください」と書かれており、狙い通りなのだと思いますが。

 

ただし。B2Cにおけるマーケティング色が極めて強いです。この本に書かれている(マーケティング担当者から見た)お客様はあくまで「消費者」であって「企業」ではないようです。一個人の購買行動という観点の分析や経験則がほぼすべてであり、企業におけるそれについては触れられていません。

 

そういう意味では、一般的なマーケティングの「知られていない現実」を知るという意味では(B2Bマーケターにとっても)役に立つ本、だと思います。とはいえ、スポンサーシップ(協賛)やCSR(社会貢献活動)についての章はB2Bの世界でも有益な情報でした。

 

一方、消費者ロイヤルティーについて書かれていた章があって、ここはちょっと違うかなー、と思いました。ものすごく雑に言ってしまうとポイント制度について書かれていると思っていただいていいのですが、ここでは「ロイヤルティープログラムは値引きではなく付加価値を提供しなければ意味がない」という論調でした。私の知る限り、ロイヤルティープログラムは値引き(相当金額への変換)の方が断然消費者の関心事だと思います。「値引き」という行為そのものはロイヤルティーの低い、購買初期段階の顧客へは乱用しても意味がない(クーポンなどでその時だけ値引きを受けてリピートしない、商品そのものの価値を下げかねない、など)と思いますが、ロイヤルティーの高い(利用頻度の多い)顧客については大変ありがたいサービスだと考えています。(ロイヤルティープログラムの好例として「いきなり!ステーキ」を取り上げていたことも昨今の同社の低迷とオーバーラップして興味深いです)

 

ということで、まとめは冒頭に書いてしまいましたが、本書は主にB2Cのマーケティング従事者が陥りがちな間違いを実例に裏打ちされた理論でひっくり返していくTIPS集です。そのエッセンスはB2Bでも一部役に立ちますが、基本はB2C向けだと思います。