『「劇薬」の仕事術』雑感

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前・日本マクドナルドCMOの足立光氏が書き下ろした『「劇薬」の仕事術』を読みました。


足立氏については知人からも含め様々ところからすごい人だという噂を耳にしていましたが、その氏が「劇薬」なんて刺激的な言葉を書名に持ってきた本ということでどんな内容なのか、何について書かれているのか、以前から興味アリアリでした。


読む前は、マーケティングのノウハウ的な本なのではないかと想像していたのですが、読んでみると予想とまったく違っていて、すべてのビジネスパーソンに共通する「仕事人としての心構え」を自身の経験をなぞらえて語りかけてくる、という内容でした。平易な文体で非常に読みやすく、著者の人柄や考えていること感じていることがスススーっと胸に落ちてきて、なるほど足立流ってこいうことなのね、と納得感充実感のある読後感を持つことができます。


読み終えてみて最初に思ったことは、この本、社会人経験豊富な人よりも新入社員や駆け出し社会人、場合によっては就職前の学生にぜひとも読んでいただきたい書だ、ということでした。それは、この書に書かれていること=足立氏の持論が、氏が新卒で入社したP&Gで学んだことや経験したことが基礎となっているからです。言葉を変えると、社会人の基盤づくりの時期に何を学び何を考えていけばいいのか、のある種の指南書としても読めるのです。これは、若い社会人には実体験と照らし合わせて多くの学びがあるはずだし、就職先選びや社会人としての将来に迷ったり不安を持ったりしている学生に向けても多くの示唆を与えてくれる内容であることも意味します。


足立氏自身はある種のアウトローな人で、ありていな言葉で言えば天邪鬼、他人が選ばない道を選びたがる性格のようです。かつ、モーレツに仕事に打ち込むパッションとチャレンジャー精神を持ち続けており、転職のたびにあえて業績の悪い、どん底の状態の職場を選び、そこへ「劇薬」を注入していくことを喜びとする、そんな人柄が描かれています。ただし、ここで言う「劇薬」とはその言葉から想像されるような「アブナイもの」ではなく、行き詰った会社を再生させるための、本来は「良薬」と呼ばれるべきクスリです。その基礎は前述の通りP&Gでの経験であり、その後転々とした企業での経験もまた、すべて糧として行く先々で生かしていく、常に向上と成長を続けている氏の生きざまが本書に記されています。


ぼく自身はこれまでマーケティングと名の付く仕事に多く従事してきましたが、そんな経験を持つぼくから見て興味深かったのは、「広報」の重要性に多くのページを割いていることです。P&Gやマクドナルドと聞くと、テレビをはじめとする大量の「広告」への投資をしているというイメージがありますが、足立氏が大切にしているのは広告よりもむしろ広報なのではないか、と思える言葉が本書のあちこちに散らばっています。これは、広告の否定や軽視ではなくて、広報の重視、です。売り手からの直接的な情報発信である広告だけでなく、消費者やその媒介となるメディアにいかに好印象を持ってもらえるか、そして語ってもらえるかを大切にするという一貫した姿勢は、とても説得力があり、納得感のあるものでした。

 

マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す 「劇薬」の仕事術

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