マイクロソフトCEOとの対話『ヒット・リフレッシュ(Hit Refresh)』


1975年の創業以来四十余年もの長い間CEOが3人しかいない、変化の激しいこの業界にあってある意味異色な企業であるマイクロソフトの現CEO、サティア・ナデラによる書下ろし『ヒット・リフレッシュ』を読みましたので、若干感想を。


会社として異色であると同時に、三代目CEOであるこのナデラも着任当初は同社のCEOとしては異色と思われたかもしれません。インド出身の彼は、この本を通じてテクノロジーが社会を世界をより豊かにすることについてその信条を熱く語りかけてきます。対話という言葉がふさわしいように、読み進めていくうちにどこかの部屋でナデラと二人きにりなって語り合っている --書籍であるからして実際には一方的に語りかけてくるのだけれど-- ような錯覚を覚えるようになってきます。この本を手にしたとき真っ先に思い出したのが、初代CEOビル・ゲイツによる1999年出版の『思考スピードの経営』で、今回読み返したわけではありませんが、こちらは経営者の視点からテクノロジーと社会や組織について書かれていたと記憶しています。


インドで生まれ育ち、移り住んだ米国で数々の苦労を経てマイクロソフトのトップに立ったナデラの思考は、洞察力に富み、個々のテクノロジーへ深い造詣を持ちつつも常に大局感があって、非常にバランスがいいと感じました。と同時に、欲や邪念のないまっすぐな視線と、ダイバーシティーやインクルージョンに対する固い信念が貫かれていて、CEOという立場でありながらも社会への貢献や経済成長、不平等の解消などについて多くの紙面を割いています。最初に書いたように、テクノロジーが世界を豊かにすると信じる姿勢はもはや宗教的で、本書を別な言葉で表現するならば、「テクノロジー宗教学哲学経済学倫理学」といったところです。ビジネスの話はほとんど見られませんでした。


先ほどゲイツの『思考スピードの経営』を持ち出しましたが、彼の本はほかにもありましたね。1995年の『ビル・ゲイツ 未来を語る』。どちらかというと、今回のナデラの本はこちらの「未来を語る」に近いかもしれません。当時とは23年もの時間の開きがあるしネットをはじめとする社会インフラもテクノロジーの成熟度も今とは全く異なるため単純な比較はできませんが、コンピュータやソフトウェアへの熱意と鋭い切込みはゲイツ本がすぐれており、深遠さという意味では東洋と西洋の様々なものが体内で融合されているナデラ本の方が深さがある気がします。


冒頭の写真は、マイクロソフト社員に配られた「Employee Edition(社員バージョン)」です。そんな別バージョンがあるっていうところも本書のユニークな点ですね。ページをめくっていくと、あちらこちらに著者による手書きコメントやマーカーが入れ込まれています。とはいえ、ぼくはKindle版の日本語版を読んだのですが、、、。



WindowsやOfficeに偏向していたIT企業がオープンでクラウドな会社へと見事に舵切りを成功させ、そしてなお進化を続けているマイクロソフトの変革はナデラ一人で成し遂げたものではありませんが、彼がトップでなかったら成しえなかったかもしれません。今でも業界の先端を走り続ける企業のトップの頭の中を覗いてみたくなったら、ナデラと対話してみたくなったら、この書を読んでみるのも良いと思います。


Hit Refresh(ヒット リフレッシュ) マイクロソフト再興とテクノロジーの未来

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Hit Refresh(ヒット リフレッシュ)

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