仮タイトルは「麻布って変だ」 〜 『「謎」の進学校 麻布の教え』


タイトルにつられて買ってみたのですが、なかなかおもしろい本でした。


うちの場合は、親としての私たちの考えと子供自身の気持ちを合わせて考えた結果、娘も息子も中学受験はしない(=地元の公立中学に通う)と決めていましたので、麻布については深く調べもせず単に「御三家のひとつに数えられる頭のいい子が行く超進学校」程度の認識だったのですが、こりゃまた随分と過激でまともでいい加減で真面目な学校なんだなあ、とこの本を通じてはじめて知りました。ぼくが通っていた目黒の公立小学校からも同級生が何人か麻布へ進学して行ったのですが、この本を読んで振り返って考えてみると、うん確かに麻布へ行ったやつらはただ頭がいいってわけではなく、どこか変わった風体だったなと妙に納得してしまいました。


進学校でありながら進学校としての教育を二の次にしているという点が麻布の特長である、とこの本は説きます。偏差値を上げるための指導を重視してないんですね。自分の頭で考え表現させる独特な入試を乗り越えて来た男の子たちですから結果として地頭がいい生徒が多いせいだと言ってしまえば身も蓋もないですが、受験勉強よりも教養をつけるという理念を徹底しているにもかかわらず毎年あれだけの数の生徒を東大へ送り続けているのは驚きであります。ただ、この本はこの驚きには直接答えてくれません。執筆にあたって二年かけて取材したという著者の視点から、麻布がいかに変な学校であるかを徹底的に記録してある、そんな本なのです。物事を多角的に見る目とか、既成概念にとらわれない姿勢とか、自分自身で芯を持って考える頭とか、知識を与えるということと同じかあるいはそれ以上に教育が果たす役割として重要な「教養を身につけさせる」ということに信念を持って取り組んでいると、なぜか「変な学校」になってしまうみたいですね、世間的には。一方、これだけ風変わりだと好き嫌いがはっきり分かれる学校なんだろうな、とも感じました。


男子校である麻布を題材としている関係で、中高生という時期は女子と比べ精神的にまだまだ幼い男子が学校という環境から何を学び、一方学校側はどんな思いでそんな男子をサポートしているのか、という話題が中心となってはいますが、女子あるいは女子を持つ親御さんが読んでも十分得るものがある本だと思います。また、(麻布かどうかに限らず)いまどきの男子高校生の生態がじんわり伝わってくる生徒へのインタビューも多く掲載されており、男子高生の息子を持つ親としてもいろいろ参考になりました。


「受験」というプロセスとか枠組みのことはいったん忘れて、教育とか教養などといったことについて考えてみるのもいいのではないでしょうか。そういうきっかけになる本です。教養ってイノベーションなんだ!ってことがよくわかって、とても有意義な読書体験でした。