自分眼を磨こうぜ、というお話 〜 『マーケット感覚を身につけよう』


ブログやツイッターで「大事なことをたくさん書いた」と著者がしつこく宣伝するものだから予約までして入手しちゃいましたよ、『マーケット感覚を身につけよう』(ちきりん著)。とはいえぼく的には、この本と対になるとされる既刊『自分のアタマで考えよう』も三年前に読んでいましたし、著者ちきりんのブログも興味を引くタイトルのエントリーがRSSに流れてくれば立ち止まって読んでいますので、執拗な宣伝行為がなくとも読んでいたでしょうね。なお、「マーケット感覚」というみょうちきりんなコトバを発明したのは技ありですが、いわゆるマーケティングの本ではありませんのでご注意を。


ぼくなりに理解した、この本のメッセージは以下。

  1. 物事の本質的な「価値」を 「自分の目(アタマ)で」見極めるようにしよう!
  2. そうすれば、仕事も人生ももっとすてきなものにできるはず! なぜなら社会は市場化しているから!


上記2点を見て興味をひかれれば即購入、んなことわかっとるわいという人はスルーで問題ないでしょう。


いろいろ断定的に過ぎる表現が鼻につくと感じる読者も少なからずいるかと思いますが、大筋において正論であり、ちきりんらしい本と言えますね。インターネットがもたらした変革の一つとして「社会の市場化」について繰り返し述べていますが、これは確かにそうで、世界中の人がネットでつながってるっていうのはこういうことだよね、てな話をあの事例この事例と次々とかみ砕いて語っていきます。勘のいい人は最初の方の説明で得心してしまうでしょうから執拗に繰り出される実例の数々にちょっと辟易してしまうかもしれませんが、わかりやすく書こう、何とか思いを伝えよう、という著者の執念を汲んでいただき、目くじら立てずに黙々と読み進めるのがよろしいかと思います。


そんなこんなでこの本では、社会が特定個人同士の価値交換(相対取引)から不特定多数同士のやりとり(市場取引)に変化している現代において、ぼくたちはこれまで以上に「自分の眼(とアタマ)」で物事の本質的価値を見抜く、あるいは場合によっては価値を作り出す努力が求められているよ、という指南が続きます。「価値」って、わかっているようでいて実のところあいまいな理解をされていることが多いよなあ、と常々ぼくは思っていまして、その点でも、納得感ある話が展開されている本ではあります。(「価値」の理解に関するぼくの思いは、IBM勤務時代に学んだ「Value Proposition」の考え方に沿って過去のブログ(『バリュー・プロポジションと関係代名詞』)に書き記してあります。「価値」を単に優位性とか差別化要素という深さで理解していると本質にたどり着く前に思考が途中で止まってしまってもったいない、という話です。)


この本がきっかけとなるかどうかはさておき、日頃から「自分の価値眼」を信じ、鍛える習慣を持ち続けることは、とても重要なことだと思います。「他人の評価」、「相場」などなど、評価基準を自分の "外" に置く傾向のある私たち日本人は、このネットな時代にいよいよ変わる必要があるのでしょうね。いやもしかすると変わらなくちゃと考えているのは私たち中年以上の年寄りだけであって、いまどきの若い人はみな自分の眼で物事をとらえているのかもしれませんね。というか、そうであることを願いたいです。(過去の関連エントリー自分のセンスで選ぼう=若者の高級ブランド離れ』)


『マーケット感覚を身につけよう』は、書籍として読み入ると散文的な感は否めないのですが、社会の市場化の例としてふるさと納税による自治体の市場化革命の話とか徳島市上勝町の葉っぱビジネスの話とか興味深い実例がたくさん盛り込まれていて、読みやすくかつムズカシイことは書いてない「なるほど本」と考えていただければ有益な書だと思います。


ということで読後感を一言でまとめますと、


変化を恐れたり嘆いたりせず、プラスに転じる自分眼を磨きましょう


といったあたりに落ち着きますです。


そいじゃーね。