文系ど真ん中の人間が理系トップクラスの東工大で教鞭をとることになる、はてどうしたものか、といった心境がきっかけで生まれた、教養とは何かについて著者池上彰さんの思いをしたためた本、それが、『学び続ける力』です。今風に「〜の力」だなんて誠に残念な書籍タイトルとなってはいますが、大人の事情とスルーして本文に集中しましょう。読み終えたあとに感じたのは、この本、すべての年齢、すべての層の人々が読むべき本だなあという思いでした。
安っぽいノウハウ本ではありませんので、この本から何かを学べるかもしれない、などど期待しているとアテが外れるかもしれません。また、書かれていることが正しいとか間違ってるとか、あるいは、新しいとか古いとか、そういう著者に勝負を臨むスタンスで読むと何とも凡庸な本だという評価になるかもしれません。違うんです。この本を読んで何を感じるかは人それぞれだし、大切なことはその感じたことを胸にしまいつつ自分が次に何をするか考えて実行に移すこと。そういうきっかけを与えてくれる存在がこの本なのです。教養について深く考えたことがある人はこの本を読む必要はないと思いますが、教養と知識の違いなど気にしたことがないとか、大学にまで来て一般教養とか意味なくね?などと感じている人々にはぜひ読んでいただきたいなあ、と思います。ぼく自身も気付きが多くありました。
カジュアルにいうと、この本に書いてあるのは「一生勉強していこうぜ!」っていうこと。東工大のリベラルアーツセンターに教授として招かれた池上さんが、理系バリバリの学生に一般教養を教えるという立場から感じたことや講義への思いを中心に本は進行します。「すぐに役立つことはすぐに役立たなくなるから、すぐに役立たないことを学びましょう」とか、知識を得るだけでなく社会に関わり働きかけて(エンゲージしコミットする)こそ教養だとか、このように文字で書いてしまうと「当たり前じゃん!」とも思えるようなことでも、自分を客観的に見つめ直してみると実はちゃんとできてなかったということは多いはず。そういった「一生勉強」メッセージが、自然体で謙虚で押し付けがましくなく時には厳しく書き連ねてあります。
よく言われることですが、海外の人たちと話をすると自分がいかに自国(日本)のことを知らないかを痛感します。これも教養のひとつ。知らないから地に足のついた意見が持てないしまともな批判もできない、歴史とか宗教とか政治とか文化とかそういった「日本のこと」ことを外国人へ話してあげることができない…。
この本は「知ること学ぶこと」だけでなく「得た知識を使って働きかけていくこと」を説きます。娘がこの春から大学へ進学しリベラルアーツの学部で学びをスタートさせるということともあいまって、うなずいたり首をかしげたり、書かれていることにいちいち反応しながら読み進めていました。
「教養ってなんだろう」をあらためて考える機会をくれた『学び続ける力』に、感謝!
- 作者: 池上彰
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