つぶやく志ん魚(しんとと)は1980年代のツイッター


森田芳光監督の訃報が届きました。心よりご冥福をお祈りします。


森田さんの初期の代表作と言えばぼくらの世代では文句なく『家族ゲーム』でしょう。家庭教師の既成概念をぶち壊す松田優作の無茶っぷりと日本一ヘラヘラ笑いがうまかった宮川一郎太、そしてお父さん役の伊丹十三やオトボケぶりが絶妙な由紀さおりのお母さんなど個性的な役者陣が絶妙な間のあるストリーと溶け合った、見事な映画でした。


しかし。ぼくが一番気に入っていた森田映画は『の・ようなもの』。レンタルビデオ屋に行っても見かけることのあまりない作品ですが、森田監督の劇場公開デビュー作と言われて、ああそうだったかしらと思うくらい完成度の高い映画でした。


うだつの上がらない落語家を主人公とした、深夜時間帯のテレビ放映にぴったりともいえるだるい(笑)雰囲気はそれはそれで居心地のいいものです。そしてなにより、クライマックスシーンの印象的なことといったら!


クライマックスとは、深夜から明け方にかけての東京の下町をとぼとぼと歩きながら目に映った街の風景を短い言葉で吐き出しながら「志ん魚(しんとと)、志ん魚、…」(主人公:伊藤克信の役名(前座名?))と主人公が繰り返すシーンのことです。圧倒的な緊迫感と解放感と静けさともの悲しさが混じりあいながら「人と街」を次々と切り取っていくシーン、そう、この風景描写の連続は140文字で完結する世界、まさにツイッター的なのだ!1980年代初頭、ツイッターの原型は東京下町を描く森田映画にあったのかもしれない…、とかなんとか。

の・ようなもの [DVD]

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