感動させられない映画。『ツレがうつになりまして。』


ふらっと、ほんとにふらっと映画『ツレがうつになりまして。』を観てきました。観る前から "感動させますよ" ビームが炸裂している昨今の押し付けがましい映画たちとは違い、ストーリーも出演者もすべてが自然で、居心地(観心地?)の良い作品でした。


どこがどう居心地良かったかと言うと、「うつ」という病気を題材としつつも主人公の家族や身の回りに起きたことを誇張や説教なしにまっすぐ語ることによって、登場人物間の愛情や思いやりといった心の動きがごくごく自然に伝わってくる、そんな仕立てになっているところです。こういう病気を映画で描こうとすると、どうしても大げさになったり説教臭くなりがちだと思うのですが、それがないんですよね。


ぼくは原作を読んでいませんし今のところ読む予定もないので映画としての『ツレがうつになりまして。』の感想になるわけですが、原作のトーンがそうさせているのか、監督のセンスがいいのか、あるいはその両方なのでしょうか、とにかく、観客に「うつ」の実態をできるだけそのまま伝えたいという思いがある一方で、"観る者にこう感じてほしい"という意図がほとんど感じられないところが、居心地の良さの理由かもしれません。


居心地がいいだけではなく、「うるっ」と来るポイントがちりばめられていたり(たぶん、観る人によってうるるポイントはそれぞれだと思う)、「だよねー」とうなずく場面もチラリチラリ。究極的にはこの映画、陳腐な表現だけれど「夫婦愛」なのですね、少なくともぼくはそう感じました。お互いを思いやる気持ち、独立した男と女という関係ではなくひとつの家庭を形成する存在。結婚を「ゴールイン」なんて表現しているうちは絶対にわからない夫婦愛が旦那の「うつ」によって自然に浮かび上がってくる、そういう話です。