時代劇映画にはまる。


海外出張の機内で鑑賞するのは「タダで観られるならチェックしておこうかな」という映画が中心で、普段お金を出して観に行くことの少ない、ちょっと安い感じのSFとか大ヒットしてるけど自分の好みとはチト違うかなという作品がほとんどでした。そういったぼくの機内チョイスにこれまで時代劇は入ってこなかったのですが、今週のシンガポール出張では他に目ぼしい作品が見あたらず、消去法的に時代物を観てみることにしました。


ところがです、これがいいのです、時代劇が。テレビでは、大河ドラマや勧善懲悪もの、江戸風情のほのぼの作品以外の時代劇にはあまりお目にかかりませんが、映画はいいですねー。


今回機内で鑑賞したのは、比較的最近の作品である『柘榴坂の仇討』(http://zakurozaka.com/)と『蜩ノ記』(http://higurashinoki.jp/)、それから少しだけ前の作品になりますが『最後の忠臣蔵』(http://wwws.warnerbros.co.jp/chushingura/)、の三作。たまたまこの三作をチョイスしたのがよかったのかどうかはわかりませんが、和洋問わず現代劇とは完全に一線を画す分野ですね、これは。あまりの感動に心を動かされ続け、行も帰りも涙で目が腫れてしまいました。


ひとつには、映像と音響。絵にしても音にしても、静と動がシャープに表現されていて、感情移入ならぬ情景移入しまくります。3D映画が小手先の技術を使って「立体感」や「奥行感」を表現しているのとは対照的に、これらの時代映画はどれも静と動を巧みに操って「臨場感」を作り上げ自分自身がその場にいるかのような錯覚を覚えるほど引き込まれていきます。とりわけ「静」の表現がすばらしく、たとえば『柘榴坂』では無音のシーンでひらひらと落ちてくる雪の「無音が聞こえる」ほどのリアリティー。映像内のすべての無生物から「無音の声」が聞こえてくるような映像美でした。


続いて心を打つのが、登場人物の「武士と死」に関する執拗なまでの誠実な姿勢。「主君のために死す」といった現代日本ではありえない価値観でも、時代を超えてわたしたちの心を打つのは、誠実さやひたむきさなのではないかと思います。『蜩』での主人公は自分の命よりもお家のために生きる、そのあまりの純真さに価値観は違えど感動の涙が自然と流れてきます。


あと1点、今回時代劇映画に心を動かされたのが、「英語の字幕」の存在。音声はもちろん日本語で聞いていたのですが画面上に英語の字幕が表示されるんですね、これがとてもいい体験になりました。時代劇を英語を通して観ることによって、逆に和の心をより深く知ることができる、そういった感覚を持ったのです。同じ日本語とはいえ時代背景が違いますから、登場人物の言葉を英語にするのは現代劇の翻訳とは異なる技術が求められると思います。この年にしてはじめて、翻訳っていうのはとてもすばらしい仕事だなあ、と発見した次第。


「映像と音響」、「純真すぎる誠実さ」、そして「英語を通じて和を知る」。まとめていい経験ができました。時代劇映画、いいですね。