2010年の備忘録


率直に言って2010年という年は様々な変化があって近年まれに見るおもしろい一年だったと思います。ぼくの関心が高いテクノロジーやネットまわりを中心に、備忘録的に今年を振り返ってみます。


「ソーシャル」
検索→発見というしばらく続いてきたウェブの利用法や情報のつながりが、ツイッターFacebookの浸透によって変化を受け始め、それとともにソーシャルナントカっていう言葉や専門家(?)が急増しました。ただ、ソーシャル的なものは検索を置き換えるのではなく補完的なものだと思うので、ちょっと加熱しずぎの感がありますね。来年は、流行りに乗じてどこからともなくやってきた虚け者どもの化けの皮が剥がれると同時に、ソーシャル的なものの本当の意味での活用が進む年になるとも言えるでしょう。ちなみにFacebookが諸外国並みに日本で普及するか?についてはちょっと懐疑的。日本は(悪い意味ではなく)ネットに関してユニークな国民なので、彼ら自身が変わる必要があると思っています。


タブレット
iPadがこの市場に火をつけましたね。iPadの登場は春先でしたが、もうずいぶん前のことのように思えます。眠い目をこすって見ていたジョブズのプレゼンで噂どおりの「iPod touchのでかいやつ」がほんとにソノマンマで登場してきたときは、ツイッター上でも「うーむ」という微妙な空気を感じたものです。でも結局この新ジャンルのデバイスはヒットし、その後他社が追随することになったのはご承知のとおり。我が家にも一台調達しましたが、「リビング用ウェブマシン」として大変重宝しています。(反面、うちではアプリはあまり使ってませんねぇ) なお、個人的に7インチはネットブックがいまだ果たせていないセグメント向けとして「あり」だと思ってます。


スマートフォン
年の後半になって一気にAndroidが「本物」になってきました。「本物」の意味は、IT系の人間だけでなくその他の方々の口からも普通に「あんどろいど」という単語を耳にするようになったということです。Androidのバージョンが進んだことや細かな技術的改善の積み重ねは重要な要素だったとして、やはりメジャーな携帯キャリアが本腰を入れてきたことが「本物」につながりました。とくに出遅れていたとみられていたauの本気度(IS01のOSバージョンアップの扱いなどでケチはついたものの)の影響力は小さくなかったでしょう。このジャンルをスマート「フォン」と呼ぶのはやめればいいのに、と思いますが、確実に普及への道を歩み始めました。


電子書籍
電子書籍元年にふさわしい動きがありました。デバイスに関しては、先行するキンドルがすばらしい道具であることは当然として、ここでもiPadが世界をゆすり動かしました。日本のメーカーからも電子書籍リーダーがいくつも生まれ、スマートフォン同様「本物」になってきた感があります。あとは日本のコンテンツ、本がそろってくることを望むばかりです。さて、日本の流通革命は起きるか?


Ustream
ニコニコ動画とあわせて、USTによるネット放送(?)がすっかり常識化しました。ここでいう「常識化」とは、巷に行き渡ったということではなくて、主に技術的な問題がほぼなくなったという意味です。IT系企業ではもはや、イベントやセミナーなどをUST中継をすること自体はまったく珍しいものではなくなりました。様々な趣向を凝らした番組がネットを通じて配信され、それをパソコンなどから見るというスタイルは、来年定着するでしょう。坂本龍一宇多田ヒカルなど先を見るミュージシャンが積極的に活用を進めていることも注目に値します。これは「動画配信」という狭い範囲でこの現象を捉えてはいけないことを示唆していますね。


ツイッター
使ってなくともたいがいの人が「ツイッター」を認知するようになりました。ドラマが先か普及が先かは議論分かれると思いますが、ツイッター界隈で話題を振りまいた『素直になれなくて』というテレビドラマもありました。引き続きたくさんのツイッター関連書籍も出ました。個人的には、週刊ダイヤモンドの表紙にツイッターぼくのアイコンが(ちーさく)載ったことや、参加していた飲み会のスナップショットが日経ビジネスのムック本に見開き2ページに載ったり、あるいは豚組しゃぶ庵で思いがけずいとうまい子さんにお会いするなど、印象深い出来事がたくさんありました。ツイッターが世間に定着した年です。
(関連エントリー:『週刊ダイヤモンドは「ツイッターの旅」』、『なぜ、つぶやくの?』)


3D
アバター』が火をつけました。ぼくは3D技術そのものには可能性を感じていますが、利用方法がイケてないなという印象を持っています。たとえば映画については3Dは過剰演出だと思っています。一方同じエンターテイメントの世界で言えば、テーマパークのアトラクションやゲームのような双方向なものにおいては利用者体験を別次元に持っていく革新的な技術です。3Dテレビは、、、微妙。位置づけとしては多チャンネルサラウンド装置、のようなものに近いかもしれません。
(関連エントリー:『「アバター」についてもう一言だけ』)


クラウド
すっかり定着しました。クラウドという言葉自体はいいように売り手側に利用されている感がありますが、プライベートでもパブリックでもそれぞれ一定の効果が見込めるものです。個人的にはクラウドとは本来ネット上の雲を指す言葉であり「あちら側」にサービスが置かれていることこそ本来のクラウドだと思っていますが、プライベートについても、たとえそれがサーバーのデータセンター集約の話だろうが実際は仮想化そのもののことであろうが、ITインフラの進む道の一つとして重要なものだと思います。


「SAP」とは? (番外編)
IT関連の業界で言えば、SAPといえばドイツに本社がある業務ソフトウェア会社のことです。一方、ソーシャル・アプリケーション・プロバイダーを略して「SAP」と呼ぶ向きがその筋では定着してしまっています。異なる業界であれば同じ言葉を違う意味で用いても実害はありませんが、IT業界とソーシャルアプリ業界はまったく別なのかと問われれば、「今は接点が少ないかもしれないがじきに重なる」が正しい見方だと思います。つまり先々両業界が重なっていけば、ソーシャルアプリとしてのSAPという呼び名は市場に混乱をもたらすことが想像つくのです。ソーシャルアプリ的SAPは日本でしか通用しない呼称でもあり、彼らが海外も視野に入れるのであれば一日も早く異なる呼称を考えるべきだと思います。


他にもたくさんの出来事がありました。Google Waveの開発中止であるとかクーポンサービスの勃興、あるいは海上保安庁のビデオ流出事件、ウィキリークス事件などなど。そういった今年起きた様々なことを通じて感じるのは、上のまとめでも再三出てきた「本物」や「定着」という動きです。従来一部の先進的な、あるいはテクノロジー好きの間でもてはやされていた道具やサービスが一般の方々にも浸透し始め「本物」化し、同時に、ネットが特別なものではなく現実世界とシームレスな存在として「定着」したのが2010年だったのではないでしょうか。世間がこれほどまでにネットやネット上のサービスを「意識すると同時に意識せずに」いたのは今年が初めてのような気がします。