バリュー・プロポジションと関係代名詞


私がIBM時代に学んだことの中でも、とくに忘れられないのが「バリュー・プロポジション*1」という言葉とその意味です。


IBM以外の会社でも、マーケティングやそれに近い仕事をしていると「バリュー・プロポジション」という言葉を耳にすることがありますが、たいていは、単に「自社の強み」「競合優位性」という漠然とした理解の下で使われているように思います。これはちょっともったいない。もう一歩踏み込んでこの言葉の意味するところを味わってみましょう。


IBMが言うところの「バリュー・プロポジション」の定義は簡潔、明白です。IBMで長年マーケティング・マネジメントをされている永井孝尚さんのブログ(『競合と差別化する、バリュー・プロポジションの考え方』)から引用すると、

「(1)お客様が望んでいて、(2)自社は提供できるけど、(3)競合他社は提供できない価値」

のすべての要素を備えたものが「バリュー・プロポジション」なのであります。IBM時代に私が受けたマーケティング・マネジメント研修の記憶をたどってさらに細かく見ていくと、


(a) ターゲットとするお客様は誰?
(b) お客様の課題、痛みは?
(c) 私たちが届ける「価値」は、そもそも何?(「バケツ」とか「釣り竿」といった具合)
(d) その「価値」の具体的特長、自社の強みは?
(e) そしてそれは、競合が提供できないものかどうか?


のそれぞれについてしっかりと考えた末に紡ぎだされてくるのがバリュー・プロポジションのメッセージです。IBMでの研修では、この(a)〜(e)がきわめて簡潔な、たったひとつの英語の文章であらわされていた*2んですよね。その洗練された一文を見たとき「日本人が英語の壁を超えるのは関係代名詞に目覚めたときだ!」と膝を打ったくらい、英語という面からも目からウロコなものでした。


上記(a)〜(e)どれもが印象深いのですが、中でも私の心に深く刻まれているのが(c)。(a)〜(e)をひとつの英文にすると、(c)は関係代名詞の「先行詞」にあたります。


(c)を意識することによって、「それはそもそも何?」を曖昧にしたまま機能や(一方的な)価値を訴求してないだろうか?という点を常に気にするようになりました。「お客様は機能を求めてるんじゃない、ソリューションを求めているのだ」とよく言いますが、その「ソリューション」という言葉自体、曖昧です。「そもそも何?」 を明言することは、価値訴求において重要なのだと私は思っています。関係代名詞的思考のない日本語と日本人の会話では、このあたりが曖昧でもなんとなく意味が通ってしまうので、ぜひ強く意識しませんか、というお話でした。

*1:IBM的には「・」(ナカグロ)を入れるのが正しいのですね

*2:どうしても正確に思いだせない! 目から落ちたウロコと一緒にどこかへ行ってしまったのか!? 誰か教えてほしい!!