バージョンアップの憂鬱


毎年この時期になると「筆まめ」のバージョンアップのお知らせがダイレクトメールで届きます。毎回、機能強化ポイントをアピールした内容となっていますが、最初に筆まめを購入してから6年間、私は一度もバージョンアップをしたことはありません。「バージョンアップ」で儲けるというビジネスモデルを発明したのはマイクロソフトではないかと思っているのですが、このモデルに乗って商売をしている多くのソフトウェアベンダーは、一種のジレンマを常に抱えながらいかにして顧客にバージョンアップしてもらうか (そして、それにともなうバージョンアップライセンス料を頂戴するか) について終わることのない努力を続けています。


ひとたびソフトウェア製品を世に出したならば、顧客は品質向上を求め、製品提供者であるソフトウェアベンダーはそれに対応する義務を負うのが一般的です。バグのないソフトウェアは事実上存在しませんから、不具合対応は続きますし、ソフトウェアの構造的無駄をなくしていくことにより動作速度の向上 (もちろん品質そのものの向上にもつながります) を図ったりしながら、ベンダーは顧客満足度の維持向上に努めるわけです。そうやってより安定したソフトウェアを作ってきたのに、しかるべきタイミングが来ると新しい「バージョン」を作り、既存顧客へはバージョンアップを薦める、古いバージョンはサポート終了を宣言する、という、作り手としては苦渋の選択をしなければいけない時期が来る。上述のようにソフトにはバグがある一方、いくら使い続けても壊れることはないので、何らかの手段で買い替え需要を促さないと商売は先細りになってしまいます。商売という側面だけでなく、競争のために機能強化は続けざるを得ないという両面から、ソフトウェアベンダーは安定したものを捨てて新しいもの(たいていの場合、安定度では旧版に劣る) を薦め続けなくてはいけない、、そこがジレンマ。


と、ふと筆まめ (クレオ) から届いたダイレクトメールの中身に目を通すと、筆まめのバージョンアップそのものに関するページは全20ページ中たったの2ページだけ。残りのページは関連商品の紹介がほとんど。その関連商品も、フォントや一部ハードウェア (ワンセグチューナーや USB メモリー) などを除けば、ネット上で無料で使える同等サービスが存在するものが多く、パソコンにインストールするタイプのソフトウェア、とりわけ個人向けソフトウェアの提供・利用方法は急激に変化していることを実感します。この市場では近い将来、バージョンアップのジレンマを感じるベンダーはいなくなるのかもしれません。