ノーツの効能(10) - メール取り消し機能は必要か


Lotus Notes 8 から搭載予定の "Recall mail" (メールの取り消し機能) をデフォルトでオンにするかオフにすべきかについて、Ed Brill のブログで議論がありました。


そもそもこのメール取り消し機能、私がロータスでノーツのマーケティングを担当していた頃から (いや、もっと以前からかもしれません) 標準機能として入れる/入れないが議論されてきました。当時から、マイクロソフトはじめ競合製品でこの機能を持っているものは多く、日本からも製品へのインプリ要求を米国本社へ上げていましたが、回答はいつも「NO」。Ed も上記エントリーで述べていますが "over my dead body"*1 という強い意志で、この機能は搭載しないという姿勢を彼らは貫いてきました。『君は、自分が出した手紙を相手の郵便受けから奪ってくるのが正しいことと思うかい?』というのが彼らの主張でした。


今回、気が変わったのか政治的な圧力か(笑)はわかりませんが、とにかく最新リリースからはこの機能を入れてくるそうで、そのデフォルト値をめぐって議論が割れているというのが現状。


IBM/Lotus 側の考えは「デフォルト=オン」、つまりインストールすると Recall mail が使えるよう標準で設定されます。Ed によればこれはむしろ例外的なことで、新機能を使うかどうかは顧客が決めることであるという考えに基づき「デフォルト=オフ」が通例でした。


Ed のブログでの賛成派(デフォルト=オン)、反対派(デフォルト=オフ)の意見は、大筋以下の通り。


賛成派

  • Microsft がこの機能を持っていて、Notes は劣勢。せっかく付けるなら当然デフォルト=オン。
  • 別にどっちでもいいけど、IBM/Lotusがデフォルト=オンだと言うならそれでいいじゃん。


反対派

  • 互換性の問題も考えられるし、そもそも追加機能は管理者が選択するべきもの。(これまでの IBM/Lotus のポリシーと同じ)
  • メール取り消し機能がないこと自身が、コンプライアンス面での優位性であるので、この機能はないほうが良いくらい。(筆者コメント: 本当にコンプライアンス面で優位なの??)


賛成派に強く感じるのは、過剰な対マイクロソフト意識から、デフォルトどうこうよりもこの機能を使いたいのだ、という思い。反対派の人たちから「これ以上新機能いらないよ」というニュアンスが感じられ、「使いたい人が使えるようになってればいいじゃん」という印象。


私の考えとしては、今回の "デフォルト値の判断" に限定すれば、作る側の思想に尽きると思っています。これだけ長きに渡り実装を拒んできたものを取り入れることになったのですから、「やはりこれは必要不可欠なものだった」という判断があったんだと信じています。ならば、デフォルト=オンでよいのではないか、と私は思います。もちろん、オンであることが技術的な問題 (パフォーマンスが落ちるとか、新たな制限事項を生んでしまうとか) を発生させるものなのでなければ、という前提です。逆に、「自分は今でも不要だと思っているけど、どうしても欲しいというひとがいるので仕方なく入れた」という意思を表明するためにデフォルト=オフとする考え方もあるかもしれませんが。。。


なお、メール取り消し機能そのものについては、私は必要ない機能だと思っています。かつては、他社が備えているということもありノーツも持つべき機能だと考えていましたが、実際にこの機能が提供されている環境に身を置くことにより「特段必要ない」という考えに変わってきました。


現在私がいる会社ではメールに Microsoft Exchange (Outlook) を採用しており、メール取り消し機能が備わっています。私自身がこれを使ったことはありませんが、私の受信ボックスへ入っているメールに対して "recall" がかかったのは、この1年で数回 (十回未満) ありました。1年で数回、というのはとても少ないと思っていて、メールというツールの性格を考えればこの程度の利用頻度なのであれば、それがなくてもまったく困らないであろう、と考えます。そもそもメール取り消し機能は完全な機能を提供することはできません。取り消す前に相手が読んでしまえば意味がないですし、受け取った側がオフラインになってしまえば recall の声は届きません。取り消しを完全に保証できないのであれば、たとえば複数の人に送ったメールの場合、それを読めてしまった人と読めない人が出てしまうわけで、これはこれでヘン。郵便受けから相手が手紙を取り出す前にそれを奪ってくることができる現実世界ならいざ知らず*2、あっという間に相手へメッセージが届いてしまう電子メールの世界では、「取り消し」という考え方そのものが馴染まないのです。

*1:「俺の屍を超えていけ」あるいは、「俺の目の黒いうちは...させないぞ」という意

*2:仮に可能だとしても、やるべきじゃないなあ、と思いますが...