消えゆくアナログメーター

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最近のクルマのコクピットはデジタル化が急速に進んでいます。様々な情報を表示する多機能ディスプレイがタブレット的なものに置き換わったのを皮切りに、ドライバー正面の従来アナログメーターが並んでいたインパネも全画面が多機能ディスプレイ化し物理的な「針」がどんどんなくなってきています。


ここで話題にしたいのは主にインパネのデジタル化です。利用者視点から考えると現在の状況はごく自然なもので、その目的である「ドライバーに必要な情報を的確に伝える」ことからするとアナログ針にこだわる必要はまったくないわけで、というか、むしろ物理的な針を置くことによってインパネの大部分の面積が占有され伝えられる情報量が大幅に制限されることになります。パソコンのカラー液晶化がかなり以前より定着していたことを考えると、なぜこれまでインパネのデジタル化が進まなかったのかが不思議なくらいです。最近のメルセデス・ベンツのデザインを見ると、ダッシュボードの多機能ディスプレイとインパネが一体化した横に長ーいデジタル画面が採用されており、運転席を取り囲むディスプレイ事情はさらに大きく変貌を遂げつつあります。


ぼくは前時代的な感覚が残ってしまっている人種なので、「目の前には物理的なスピードメータータコメーターの針が並んでいるものなのだ」という固定観念が根深くあって、昨今のデジタルなディスプレイによるクルマと乗員がコミュニケーションできる情報量に反比例して「物足りなさ」を感じてしまうのですが、一方で、今の自分のクルマのアナログ余韻漂う前時代的なインパネよりずっと便利なんだろうなとは思います。


ただ、別な観点から不思議だなと思うのは、アナログメーターを模した「針をデジタルディスプレイに表示する」って、必要ないんじゃない?ということ。スピードメーターは針である必要はなくて、実際、ぼくのクルマには「ヘッドアップディスプレイ」という運転席前のウィンドウに様々な情報を表示する機能が備わっていてそこにはクルマのスピードが「数字」で表示されるのですが、正直に言って、インパネの「針」のスピードメーターよりヘッドアップディスプレイに表示される「数字」の方が見ている時間は圧倒的に長いです。あえて「針」が意味を持ちそうなのはエンジンの回転数(がゼロから限界値の間でどのあたりにいるのか)を伝えるタコメーターかと思いますが、これとて、タコメーターが重要な意味を持つ走りをする人にとってはエンジン音からそれを判断できるんじゃないかな、と思ったりして、結局すべての情報はアナログ(物理的な針とデジタル画面で再現された針の両方を指します)である必要性がないのかもしれません。


伝統と変革は、長い時間をかけて後者が前者に吸収されていくんだと思いますが、車のインパネ回りもまさに現在が過渡期 -- だいぶ後期の過渡期 -- だと思います。アナログ針が消えてしまうことはクルマという乗り物が次のステージに移ったことの象徴のような気がして、各社がしのぎを削っている自動運転技術と並走して、ぼくたちとクルマの関係が変わってきていることを表していますが、個人的には寂しさを感じることも事実です。


クルマは「運転する(操る)ことを楽しむもの」なのか、「なるべく楽に移動できるもの」なのか、人間や社会とクルマの関わりがまさに変革しているさなかにある、そんな21世紀前半期であります。

 

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