NHKスペシャルのネタにいかがでしょう、『デジタルネイティブが世界を変える』


ウィキノミクス』などで著名なドン・タプスコットによる、「生まれたときからデジタルテクノロジーに囲まれ、それらを空気のように呼吸してきた世代」を語り明かした、力の入った書です。世界規模の調査データを参照しながら、豊富な事例と自身の体験談 (著者のふたりの子どもがまさにデジタルネイティブ世代であり、本書の重要な助言者、調査対象であった) がふんだんに盛り込まれ、かなりのボリューム*1があります。うまく言えないのですが、NHKスペシャルの元ネタとして最適な書かもしれません。そう、まじめに特集組んでくれるとありがたい。本書で言われるようにデジタルネイティブ世代にとってはテレビという媒体は重要度が低いのですが、「それ以前の人々」には、まだ有効です。この本を読まない人、読めない人にもメッセージを届けたい、そう思うのです。


本書のメッセージをひとことで表現するなら、「今の若い者は、、、と言うな! 彼らが次の時代を作り、背負って行くのは間違いないし、大方の評判に反して彼らはしっかりもので有望である」というもの。著者は、デジタルネイティブ世代に対して大人たち (もちろん、ぼくも含みます) が抱いているイメージについて、次々と反論していきます。その論拠には世界規模の調査データや北米を中心とした事例などが用いられ、大半はそれなりの納得感がある一方で、「それは楽観的すぎないかい?」と感じるところもなくはありません。ただ、多少の過・楽観体質があるとしても、この本が大変価値のあるものであることには変わりがありません。こういう本を読んでいつも思うのは、書かれていることすべてが絶対的に正しい本などない、ということ。議論のなかったところに議論が生まれ、固定観念や通説というものを世界が見つめなおすきっかけを作られるということに、この本の大きな価値があると思うのです。


本書を通じて、従来社会の権力構造は否定され、教育や学習のあり方に大きな疑問が提示され、企業における若者との向き合い方に新たな視点が提案され、家族のあり方や学校生活での本質的な問題と解決への道が提示されます。そういう意味で、この本を特に読むべきなのは、政治家、教育者・学校関係者、企業のマネジメント層、そして子どもを持つ親、です。そして、世界的に見て若年層が少なく移民受け入れにも消極的な国に住む私たち日本人は、余計に注目して読むべきだ、とも思います。


インターネットの登場とテクノロジーの進化や無数に生まれては消えて行くさまざまなアイデア、そしてそれらを通じた人間同士の交流を通じて、世界はどんどんフラットになり、双方向、コラボレーション中心になっていきます。本書では、若者を (特にそのインターネットの利用方法において) 非合理的かつ病的に恐れる人々を「エンジェノフォーブス」と呼び、強力なアラートを発しています。ネットが世界を変えていることは間違いないし、新人類 (デジタルネイティブ世代) は私たちの気づかない (あるいは気づこうとしていない) ところでとっくに新しい世界をつくり、営み、社会へ働きかけています。それを拒んだり恐怖するのではなく、いったん受け入れた上で、彼らと対話して行くのが「それ以前の人々」の役目なのではないだろうか、と。


「大丈夫。彼らはぼくらが考えるよりはるかに誠実で、社会に強い関心を持っています」、そう著者は繰り返します。


デジタルネイティブが世界を変える

デジタルネイティブが世界を変える

*1:反則かもしれませんが、お勧めの読み方があります。最終章である「未来を守る」をまずはじめに読んで、続いて、翻訳者である栗原潔さんによる「訳者あとがき」に目を通してみましょう。本書全体を最初に見渡してから読み進めることができます。