知っておきたいテレビ局事情


少し出遅れましたが、『テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか』を読みました。ここでいう「テレビ」とは言うまでもなくテレビ受像機のことではなく、テレビ局、とりわけ日本の民放を指しています。この本では、保身のために構造的政治的に変化を拒む民放の過去・現在が素人にも理解できるよう平易に書かれています。私は番組制作会社側に身を置く友人が何人かいますが、飲み屋で交わす彼らとの会話はもっぱらコンテンツそのものだったので、同書で記されている業界の背景であるとかテレビ局の行動についてはこれまでまったくの無知でした。同書に目を通すまでは、「放送と通信の融合」の中でテレビ局自身の立ち位置が劇的に変わっていくだろうなというかなり漠然とした思いで現在を捉えていましたが、いま起きていることはそういった単純なものではないのだということを知ることができたと考えています。


同書では、テレビ業界の構造的な問題(問題というよりは、民放が作り上げてきた日本独自の"おいしいビジネス"と著者は表現します)を様々な角度から伝えています。コンテンツ配信インフラとしてのインターネットの拒絶、民放キー局がローカル局を牛耳るテレビ業界の構造*1が、番組制作会社との力関係、既得権である電波利用への執着、などなど、インターネットが浸透するにつれ社会で起きている変化に対していかにテレビ局が保身的で、かつその立場を利用して世の中の変化や進展を阻害しているかを、非常に分かりやすく書いてあります。ひとことで言えば、コンテンツを徹底的に自分のものにし続ける姿勢、これがあらゆる場面においてインターネットと衝突するわけで、この点をあぶりだすのが同書のテーマだと思っています。


以前『グーグル八分とは何か』について触れたときにも思ったのですが、細かい点はさておき「広く知られてはいないけど実は重要なこと」をまず知っておく、という意味でこの手の本がより多くの方々に読まれることを望みます。

テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか

テレビはインターネットがなぜ嫌いなのか

最後に、この本は目次を読んだだけでどういう内容なのかがよくわかるので、以下に添付しておきます。


序章 五十年かけて密かに築いた“おいしいビジネス”
第1章 嫌いな理由1 NTTが映像インフラを支配する―地上デジタル巡る攻防戦
第2章 嫌いな理由2 キー局の帝国が崩壊する―揺れる最強の番組流通システム「系列」
第3章 嫌いな理由3 巨人NHKが民放を蹴散らす―成長力失った公共放送はネットに夢中
第4章 嫌いな理由4 テレビ画面がネットに乗っ取られる―家電業界の戦略商品「ネット対応テレビ」の破壊力
第5章 嫌いな理由5 娯楽メディアの王座から陥落する―芸能界とテレビの蜜月に陰り
第6章 嫌いな理由6 下請け番組制作会社の逆襲が始まる―コンテンツの支配者が下克上に怯える
第7章 嫌いな理由7 放送免許が紙くずになる―政府とテレビ局に亀裂が走る

*1:あるある大辞典II」のねつ造問題で関西テレビが批判を受けていますが、同書で言及のあったキー局とローカル局の構造的な問題も原因のひとつであると考えられます