とんかつ道。とんかつ愛。


ぼくは自他ともに認めるとんかつラブな男です。いつごろからとんかつ好きになったのかはおぼえていませんが、食べ盛りの高校時代に蒲田駅ビル「パリオ」(当時)にあった『とんかつ和幸』でごはん、キャベツおかわり自由を満喫していたことははっきりと記憶にあります。若かった!


そんなぼくのとんかつ好きを知る友人から、こんな本があるよと紹介されたのが、『とことん! とんかつ道』(今柊二・著)。なるほど、これは黙っていられないタイトルだ。


著者は「定食評論家」とのことですが、読み始めて数ページもすると、ああこの人はぼくとはまったく違うとんかつの「道」を歩いているのだなとわかります。これは良し悪しじゃなくて、とんかつとの向き合い方、もっと言うと「道」の極め方がぼくとはちょいと違うんだなあということです。


定食評論家を名乗るだけあって、この本に一貫しているのは「ごはんをがっつり食べたい人による、かつ類オススメ論」的姿勢。かなりの数の店を食べ歩かれていて、地域カバレッジや紹介されるかつのバリエーション(そう、タイトルにとんかつとあるのに本の中で紹介される何割かはとんかつ以外のフライものなのである!)は素人にはとても真似のできない芸当なのですが、著者の愛情はとんかつ自身と言うよりは定食のおかずとしてのそれに注がれているように思います。たとえば、ごはんやキャベツのおかわり自由は基本サービスであってほしいと考えておられるし、定食として許容できる以上の値付けに対しては高いというだけで評価を下げる(食べようとしない)のです。繰り返しますがこれはこれでひとつの評価軸ですので良し悪しではありません。これもまた別の愛し方です。


そんな本書を読んでいると、今さらながらに自分のとんかつ愛の深さを再認識します。ひとことで言えば、読んでいてイラっとしてしまうのですね。いろんな愛し方があると頭ではわかっているのに、他人の愛にイラっときたり一言意見をしたくなる、それもまた愛。


ぼくは、ごはんもキャベツも味噌汁も、主役であるとんかつを引き立てる脇役(名脇役であることが望ましい)と思っていますし、ボリューム感がなくてもまったく問題なし。ある意味ぜいたくな楽しみ方なのかもしれないけれど、とんかつグルメと皮肉っぽく指を差されても、好きでやってるんだからいいじゃないの、と思います。


そんなぼくの好きなとんかつは、まず、何をおいても肉はロース。赤身と脂身の華やかな出会いの場を演出する衣は薄めがいい。中程度の粗さのパン粉は主張せず、パイ生地のように優しく肉を包み込む形がベスト。ロースはジューシーさよりもしっとり感を重視し、肉の弾力を感じることのできる程度の厚さがあるのが理想。求めるのはバランスであり量ではない。そして何より、トンカツではなく、とんかつなのだ。とんかつの起源や変遷には実はあまり興味がなく、洋食っぽいかつより純和風を感じさせる職人気質なとんかつが好き。塩で楽しむより自家製ソースをほんの一、二滴だけ落としていただくほうがいい。からしはつけないし、レモンを絞るなどもってのほか。


秋葉原とんかつ丸五はいつも麗しいロースで出迎えてくれるし、高田馬場成蔵は芸術的に整ったとんかつをさりげなく出してくるし、蒲田のは平凡な店構えからは想像できないほど素材と技が調和してるし、六本木の豚組食堂では肉の風味と味わいを活かすことへの情熱とこだわりに毎回舌鼓を打つし(期間限定のかつカレーが絶品!)、そんな素敵なお店たちはこの本『とんかつ道』では紹介されないのであった。


今後も、そんなぼくのとんかつ道をご紹介していく所存です。