『第9地区』のリアリティーに戦慄


第9地区』を観てきました。一言でいうならば、めったにない「戦慄」を覚えた映画。悲惨な戦争映画を観た後の感覚に近いです。この作品は、差別をする側とされる側双方の視点を主人公の「体験」を通じて見事に、リアルに描いたという点で非常に貴重な映画であり、暴力的描写がどうしてもダメという方以外は必見でしょう。


さて、何を語ってもすべてネタバレになるほど密度の高い映画なので、いくつかの視点からの感想を以下に。


(1) やつらはああいうルックスの宇宙人じゃなければいけなかったのか
醜さをストレートに表現する目的にはよいのですが、作品のメッセージを伝えるためには「空からやってきたエビ似宇宙人」ではなく人間が突然変異したミュータントのような「より人類っぽいもの」の方が、後述する「SF的突込みどころ」を軽減できるしよかったのでは?という感想。ただ、映画自体が十分リアルなのでこれ以上やつらをリアルにするとやり過ぎとも思え、なかなか難しいところ。


(2) ハリウッド映画的美談はぐっと抑えてある
主人公、はっきり言って良人ではありません。自らの運命を悟ったあとも、一瞬利他的になったようにも見えますが実際は最後まで自分のことしか考えていません。宇宙人も徹底的に醜く描かれています。ハリウッド映画にある「悪いやつもいいやつになれる」とか「醜いやつも見ようによっては美しい」てな描写は排除。このあたりも、リアリティーを高める要因となっています。


(3) しかし我慢できなかったロボットアクション
あのロボットスーツ(名称不明: パイロットを包み込むような装甲ロボット*1 )は、いかん。。。どうして欧米人はあれ好きなのかね。こいつが出てくると個人的にはかなり興ざめしちゃいます。そっちが主題の映画ならいいのですが。。。


(4) SF的突っ込みどころ満載
「え、それっておかしくね?」という突っ込みどころ満載ですが、そんなこと気にしてたら楽しめません。少々の矛盾とか「ありえなさ」は無視して主題に集中しましょう。その価値のある映画かと。


(5) 暴力描写は賛否あると思う
PG12指定。人間や宇宙人が一撃で粉みじんになるシーンが連発します。ほかにも残酷なシーンが多くあります。ここまでの暴力描写が必要だったかは個人的には疑問。一方で、自分より若い世代からの「(この程度の暴力描写が)ちょうどよい」、「泣けた」という感想も聞き、これってジェネレーションギャップなのかも、とちょっと落ち込んだり(笑)


暴力描写に眼を覆いたくなるひと以外は、観る者はみなこの作品世界にグッと引き込まれていたのではないでしょうか。画面の構成や撮り方、ストーリー展開やテンポ、場面の切り替えなどなど、そういったものが相まってものすごい緊張感とリアリティーを作り上げています。3D技術で作り出す表面的なリアリティーとはまったく違う世界がそこにあります。

*1:ターミネーターロボコップあたりからこの手のアクションSFでよく出てくる高さ数mの二足歩行ロボット。最近ではアバターでも大活躍w