『iPodは何を変えたのか?』について


個人的にはつい数ヶ月前にはじめて iPod にふれたばかりですが、最初に受けた説明のしようのない感覚(または、誰もが感じる「他とは違う」という印象)と、社会へ与えたすべての影響も含めて、文字通り iPod が変えてきたもの、結果的に変わったことを独自のアングルで一冊の紙の書物にまとめたのがこの本。全部で9つの章 (終章を入れると10) はそれぞれ独立しているので、読者は本の1ページ目から始める必要はありません。本を読み終えると、著者が伝えたかったことが原題に端的に表現されていることがわかりますが、このおよそ日本語には不向きと思えるしゃれたタイトルは、おそらく訳者や出版元が相当苦しんだ末に到達したと思われる「〜は〜か?」というありがちな邦題に落ち着いています。iPod という極めて美しい電子機器を通じて著者が感動したものはその「完璧さ」(完全な、というよりは「パーフェクト・ストームのようなもの」と表現されている)であり、数ある革新の中でとりわけ強調したかったのが「シャッフル」。そう、原題は「The Perfect Thing: How the iPod Shuffles Commerce, Culture, and Coolness」-- その完璧な物体はあらゆるものをシャッフルしたというわけです。テクノロジー的には単なるMP3音楽プレイヤーである iPod (とジョブズ) は、すでに存在していた同プレイヤー市場をどうやってかき回したのか、メディア業界のビジネスモデルをどのように破壊してきたのか、人の生活をいかにぐるぐるに回してきたか、そういったことが力強く書かれています。383ページ。結構濃いです。じっくり読めます。


私が感じる iPodiPod たらしめるもっとも大きな要因は、徹底的にシンプルさを追求するデザイン。iTunes StoreWindows への対応などの要因も爆発的な普及へ不可欠でしたが、「他ではまねできない」などという言い方ではまったく生易しい、それを見ただけで手にしたくなる(触れてみたくなる)、奇跡的に美しくかつシンプルなデザイン。iPod ビジネス全体で見れば、超人的なこだわりでそれを作り出し、さらにメディア業界を動かしたのはまぎれもなくスティーブ・ジョブズであり、他の誰でもこの結果を導き出し得なかったでしょう。iPod は、著者もジョブズ自身も言っているように Macintosh 以来の革命的商品であります。(iPhone がこれに続くものかどうかは甚だ疑問)


話は変わりますが、私は、しっかりデザインされたものに対してはそこに直接触れたい・見ていたいという思いが強く、iPod もカバーなどをつけずに素のまま持ち歩いています。同書によると、ジョブズiPod の外観を損ねるものはどんなものであれ許せないらしく、iPod 用のカバーを執拗に嫌っているようです(仮に傷が付いたっていいじゃないか、とさえ言っているとか)が、一方であの白いストラップを別なものに置き換えることに関して彼はどう考えているのでしょう? 私は、標準付属のイヤフォンが耳にあわず&音漏れを軽減するためにゼンハイザーのカナル式イヤフォン(色は黒!)に差し替えていますが、白いストラップは iPodアイデンティティーでもありジョブズのこだわりとも思えるので。。。


人生も社会も歴史も、もちろんテクノロジーも、次に何が起こるかわからない「シャッフル」なものであり、奇跡と偶然の連続なんだと思います。だから、すべてに感謝して日々生きなくちゃいけないなー、などと思うこと時折。

iPodは何を変えたのか?

iPodは何を変えたのか?