パソコン嫌いによるパソコンへの期待〜アラン・ケイのインタビュー記事に寄せて

ITproにて8月16日から3日連続でアラン・ケイ氏のインタビュー記事が掲載されました。氏は様々なところで講演しているしメディアにもよく出てくるので、このインタビューでなにか新しいアイデアを披露しているというわけではありませんが、彼の言動に興味ある方もない方も、「一瞬足を止めて過去と未来を見つめる」時間をとるために、ご一読されることをおすすめします。


パソコン*1の概念を提唱したといわれる方ですし、業界の重鎮にしてご意見番的存在ですね。私が社会人デビューしたころ(90年初頭)、勉強のために手にした「コンピュータの歴史」てな感じの書籍にはしつこいくらいに登場してらっしゃいました。


今回の記事で私が印象に残ったのは2点。「ユーザー不在のパソコンの進化」と「刹那的なネット世界の方々へ警鐘」です。


私は生まれてからずっとIT業界に身をおいていますが、一貫してパソコン嫌いを自称していました。(笑) 理由は、使い方が難し過ぎるからです。ひとの生活を豊かにするためのパソコンに、どうして「パソコン教室」なるものが必要なのか。「パソコンが使える」ことがスキルであってはいけないと思います。このように「使い方がわかんねー」というのが私レベルの人間がパソコンを憂う理由ですが、もちろんアラン・ケイ氏の考えはそんなに浅くありません。とはいえ、氏の言う

コンピュータを利用して勉強しようとしている子供がいたとするなら、その子供にふさわしいユーザー・インタフェースを提供することが望ましい。子供がパソコンの前に座ったら、その子が文字を読めるかどうかを判断する。文字を読めない子供なら、コンピュータが読み方を教えてあげればいい。

これを実現するコンピュータって、どういうものになるんだろう。使用者を認識・識別して振舞いを変えるコンピュータ、早く会いたいです。ま、つまるところ、

今のコンピュータは、使える人には便利だが、それ以外の人にとっての使いやすさが欠如している。1)より効率を高めること、2)ユーザーへの適応性を高めること、この二つの発想からコンピュータを設計するように心がけなければいけない。

ということだそうで。平易な表現でまとめていただいて、ありがとう。そう、『本質的事象はいつも平易な言葉で表現されるはずある』(by 斎藤)

私にとっての「ユーザー不在のパソコンの進化」の意味するところは、Windowsのおかげでパソコンが普及したともいえるし、逆に進化が鈍化したとも言える、一種のジレンマです。


もう一点の、「刹那的なネット世界の方々へ警鐘」についての氏のご意見は↓

Web関連の人たちは、何でも自分でやりたがる。過去から学ぼうとしない。

最近の業界連中は温故知新の意識が薄いとご立腹の様子。さらに、

本当の目的と違うことに、新技術が使われているケースが目に付く

技術が普及し、日常の一部になるということは、本来の重要な目的が忘れ去られることを意味するのかもしれない

この文章だけ抜き出すとわかりづらいかもしれませんが、ここでは携帯電話が引き合いに出されて、携帯電話は本来「どこにいても会話ができる」という重要な役割を担っているはずなのに実際の利用の大半はしょーもない内容のやり取りに当てられている、という指摘です。さらに、

多くの人は、コンピュータを使って何かを学ぼうとしていない。単に楽しんでいるだけだ。本来は、人がアイデアを生み出す道具として発明されたはずが、娯楽の一部になってしまっている。こうしたポップ・カルチャーは危険だ。みんなが愚か者になる恐れがある。それは基本的に無知な文化であり、過去を振り返ったり未来を見通すことなく、その場・その時だけを刹那的に体験することに忙しくなりすぎている。

過去を振り返ってばかりいる"うるさ爺"にはなりたくないですが、耳を傾けるべきところはあると思います。
私がとても気に入っている迷格言(笑)に『手段のためには目的を選ばない』*2というものがありますが、ネット時代、この手の感覚は大切にしなくちゃいけないと思いつつも、それが行き過ぎると氏の指摘する「その場・その時だけを刹那的に体験することに忙しくなりすぎる*3」状況に陥ります。注意。

さて。
氏の一番伝えたかったメッセージは実は上記のようなことだけではなく、これらを題材にしつつも、子ども向けコンピュータが大事なんだよお、ということだったんじゃないかと思います。これについてはわたくしがウンチクたれるより直接記事をお読みいただいたほうが精神衛生上よろしいと思いますので、以下リンクをご参照ください。


アラン・ケイが描くパソコンの未来像(前編)
アラン・ケイが描くパソコンの未来像(中編)
アラン・ケイが描くパソコンの未来像(後編)


補足:インタビュー中、氏が「いい仕事してる」と紹介していたCycorpというところ、私は知らなかったんですがWebサイト見るとまじめに人工知能(A.I.)やっているのですね。すごい。

*1:ここではきちんと「パーソナル・コンピュータ」と呼ぶべきでしょうか。これは断じてWindowsMacintoshのことではないです

*2:by かつての師匠樋口理さん

*3:この「忙しい」という表現、好きだなあ。英語ではなんと言っていたのか、興味あります