知的なプーさんと芸術が爆発するももの話(『高嶺の花』)


毎回、物語の世界に完全に引きずり込まれていたことに見終わった後に気付くという没入感を味わっていた『高嶺の花』(日テレ)が終了しました。没入要因の大半は、主演の二人のリアル感と人間的魅力でした。


結婚式当日の破談による喪失感と自失感、家元継承継問題で揺れる心、亡き母の思いと自身の血筋に対する疑念、芸術家としての自分を取り戻せない挫折と焦り、、、様々なプレッシャーや精神的不安定さの中に身を置きながらも、もう一人の人格が商店街の自転車屋の純粋な愛情に惹かれ頼ってしまう、そんな月島ももを演じた石原さとみ。表面的にはしがない自転車屋だけれども、心は純粋で、物静かで知的であり、芸術への理解もある優しい不細工男、風間直人を演じた峯田和伸。この2人が本当に生き生きとして、リアルで、魅力的で、知らぬ間に引き込まれていっている感じでした。


最終回がハッピーエンドすぎると言えなくもないですが、最終回の俎上のシーンで見せた、華道家元という超高格式の圧力から解き放たれたももの表情は、この最終話にしてようやく見ることのできた彼女の自然な笑顔であり、観るものに安堵と幸せ感を与える、見事な「変身」でした。脇役のみなさんも、この奇妙なラブストーリーをいい感じに盛り上げてくれていました。


あり得ない設定(いや、テレビドラマという観点からは十分あり得る普通に軽い設定とも言えるけど、その軽薄さと裏腹にストーリーは実に真剣!)にリアル感と人間的魅力とを注入して、最後は涙腺を緩ませてくれる物語に仕上げた出演者とスタッフに拍手! 絶妙なタイミングで流れてくるプレスリーの『ラヴ・ミー・テンダー』が後を引く秀作です。