藤井風と風間塵(『蜜蜂と遠雷』より)

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この年末年始をまたいで恩田陸の小説『蜜蜂と遠雷』を読んでいました。松岡茉優松坂桃李らが出演する映画版を年末に観たことがきっかけで原作に手を出した、といったパターンです。

 

蜜蜂と遠雷』は、とある国際ピアノコンクールのコンテスタント(コンクールで競い合う演奏者)をめぐる青春群像劇ってとことになってるんですが、登場人物のひとりである風間塵(かざま・じん)がその立ち振る舞いや生い立ち、天才肌な演奏などで異彩を放っていて、物語の中で重要なアクセントになっています。一種の発達障害ではないかと思える(←ネガティブな意味ではありません、むしろリスペクトさえする感情から書いています)天然で破天荒な言動が、なぜかわからないんですけど、紅白への出場によって人気実力とも全国区となった藤井風くんと重なって見えるのです。偶然二人とも「風」という字が名前に含まれていますしね。

 

実はぼくは、お恥ずかしながら藤井風くんに関しては昨年末ごろにどこかの報道番組で取り上げられたのが彼を知るきっかけでありまして、まあ、世間的には「今さら気づいたの?」的な指摘を受ける側の人間ではあるのですが、彼に対する第一印象は「なんかスカしたにーちゃんだな(←ネガティブな意味で書いてます)」でした。なのですが、その後彼の曲を知るたびに、おっとこれはかなりの大物なのではという思いが持ち上がってきまして、紅白での言動やパフォーマンス、そしてMISIAとの協演を聴いて、いよいよこいつは本物の「天然」であり、才能とスケール感が半端ないな、との確信に至りました。

 

蜜蜂と遠雷』での風間塵は、養蜂家の父と移動生活をしていて、自分のピアノを持っておらず(!)、それでいて猛烈なテクニックと表現力を持ち合わせており、世界的なピアノ奏者に師事しているという小説ならではのかなり強引な設定の登場人物です。彼の奏でる圧倒的な世界観が古典的なピアノ楽曲の枠からは大きく逸脱しており、コンクールの審査員の中でも演奏力は誰もが認めるもののその評価は二分するほどの「問題児(彼の師は彼をして "ギフト" と呼び、審査員たちは "爆弾" として畏れていた)」なのですが、そんなスケールの大きさが、まったくぼくの個人的な感覚なのですが、藤井風くんと妙に重なるのです。

 

藤井風くんの曲については、楽曲としての技巧の高さに加えてあの歌唱力と相まった曲全体の世界観が圧倒的で、気づくと深く深く彼の世界に引きずり込まれていることに気付かされます。風間塵は架空の人物ですが、藤井風くんがこの現実世界でどこまで日本や世界の音楽界を破壊(←言うまでもありませんがポジティブな意味です)してくれるか、楽しみで仕方ありません。