実践するエンタープライズ2.0


エンタープライズ2.0 〜 次世代ウェブがもたらす企業変革』という本を読ませていただく機会がありました。タイトルだけを見て拒否反応を示す人もいるかもしれませんが、この本をフツーの「2.0本」と思ってはいけません。地に足の着いた、しっかりと、太く、まじめな本です。いわゆる「Web 2.0 的な "ネット発" のテクノロジーをどう企業に生かすか」というような単純な発想の「2.0本」ではありません。


サブタイトルにあるように、この本の主題はあくまで企業変革そのものであり、ネット時代に組織はどうあるべきで、ITはそれをどう支援していくべきか・できるのか、について実践的に語っています。その過程で、SNS やブログ、RSSエンタープライズサーチ、その他の技術やツールは当然登場しますが、それらをどう活用するかを考える以前に、まず、「私たちは何を達成したいのか」をすべての出発点に置いて考察を重ねているところが、企業向けであり、顧客視点であり、実践的であるわけです。


ゴール→課題→ソリューション: 忘れてしまいがちな「企業向けの当然」
私たちが達成したいものは何か (たとえば、「売り上げ向上」とか)、それを達成するための課題や阻害要因は何か (営業の成功・失敗事例が上手に共有されず、成約率がばらつく、とか)、それを解決するためにどのような技術をどう適用し、そしてなによりどう組織に浸透させていくか、という3段階の因果関係を常に明確に把握することが成功に欠かせない、と筆者は説きます。以下は、この点を理解するための一例 (本文 p.54 より引用)

ブログやSNSを導入した企業に対して「本プロジェクトの目的は何ですか?」と聞くと「情報共有をするためだ」と答える企業が多い。この回答は、一見至極もっともに聞こえるが、よく考えてみると論理的にループしている。「ブログの目的はブログを導入することだ」といっているにすぎない。


押し売りナシ: 徹底した顧客視点
この手の本にありがちなのが「わが社のソリューションでは...」という著者の自慢話。この本にはそれが皆無。しかも、本文中にはいっさいの同社製品名/ソリューション名は登場しないし、社名すら一度も出てこない*1。会社のホームページのアドレスすらどこにも書いていない。会社名がわかるのは、著者名のところに添えられている文字とプロフィールのページ、そして奥付のコピーライト表記部分のみ。顧客視点、そして読者視点が貫かれています。


中にいる者の声で語る: リアルで実践的
『クチコミの技術』を読んだときに感じた、「外」から様々な分析や解説を加えるものと「中」からリアリティーのある声で語っているものとの本質的な違い、をこの本でも感じました。『クチコミ...』では実践的である以上に読み物としての軽快さが特長で、テクノロジーにも深入りしていませんでしたが、こちら『エンタープライズ2.0』では、5章において少々技術よりな話にもページを割いています*2し、何よりガッチリ、しっかり書かれています。これはこれで、企業向けの話であるからして、よろしいと思います。


「ベンダー視点がない」という趣旨のことを上で書きましたが、最後の章で、ほんの少しだけベンダー視点をあえて出されている部分があります。ただしそれは、ベンダー→顧客への押し売りに類するものではなく、こういった時代でサバイブしていくためにすべてのベンダーが心得るべき視点を提示しているのです。


エンタープライズ2.0 ~次世代ウェヴがもたらす企業変革~

エンタープライズ2.0 ~次世代ウェヴがもたらす企業変革~

*1:正確には、Google Apps でメールアドレスに自社のドメイン名が使えることを示す例として、一度だけ社名が出てくる。が、それだけ

*2:この章、読者層として想定している「ITに興味や関心があるビジネスパーソン」よりは、業界人向けのようにも思えますが... なんたって、PointCast の画面まで出てくるし(笑)