『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?』は解熱剤


私は2ちゃんねるを利用したことがありません。より正確に言えば、ネット検索の結果からたどって行って閲覧することはありますが、そこまでの関係です。ただぼんやりと「時折問題を引き起こす、あるいは (悪い意味で) 話題に上る匿名投稿サイト」程度の認識と知識しかないので、ずるい言い方かもしれませんが肯定も否定もできない立場だと思っています。ただ、興味がないわけではないので (むしろ興味がある)、同書を購入する動機は十分にありました。


副題に「インターネット裏入門」とありますが、決してネットの裏世界を書いたものではありません。インターネットはすごい!、ネットで明るい未来を!!、っていう風潮に、「いやいやそうでもないんじゃない? てか、別に大したことないよ」って言わんがためにあえて "裏" という表現を使ったんでしょう。この本は、「2ちゃんねるが潰れないわけ」についての答えは第一章でとっとと片付けてしまって、あとは上述の "いやいやそうでも論 by ひろゆき氏" を展開した、そういうものです。


本文では、世のインターネット熱を冷ます解熱剤がそこかしこへ投与されています。私は、同書で批判的に書かれている梅田望夫さんの「ウェブ進化論」にかなり感動したクチではありますが、ひろゆき氏の主張にも頷ける部分も多く、ちょうど良い熱さましになったなあと思います。そういう意味で、幅広い人におすすめできる本です。面白いですよ。


とは言え、熱さましを飲んだ後でも、私は引き続き「インターネットが世界を変えていく」派であります。ただ自分として残念なことがあって、なぜそう思うのかの根拠が「インターネットが存在することによって、これまでの常識が常識でなくなると考えるから」程度なのです。情報の伝達スピードと処理能力が強烈に向上し、あらゆるもの同士のコミュニケーション方法が変容し、物ごとの主従関係が逆転し、、、という、常識と非常識が交じり合っているような状況の中から、次の新しい常識が生まれつつあるはずである、という程度の言葉しか持っていないのです。


この本を読んだ私の理解では、ひろゆき氏は一部の主張を除いて、「インターネットはみんなが騒ぐほどすごくない」を技術面から語っています。技術論だけでインターネットを片付けてしまうのはいささか視野が狭いのではないか、と思われるかもしれませんが、氏はこれをわざとやってるんじゃないかと私は考えています。世の中があまりにも無批判に「すごい、すごい」と騒ぐばかりで、"何がどうすごいのか" についての見識をほとんどのひとが持っていないことに対する皮肉として。


ひろゆき氏の (技術面でない) 主張の中でひとつ注目したいのが、ネット世界における情報ヒエラルキーのマイナス面の指摘です。「ブログの格差社会」(アルファブロガーに言論力が偏る) など、(2ちゃんるにおける匿名性以外の) ネット言論問題が無視できなくなる可能性はゼロではないと思っています。


2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)

2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)