『東大のこと、教えます』について


歴代の総長の中ではかなりユニークな存在であると評判(?)の現役東大総長による、「日本もっとがんばれ」、「東大はすごいのである」についての本。


肩書きからくる固さを感じさせない人柄の著者とあって少々期待して読んでみたものの、頷けるページは思ったよりかなり少なく、「ほぼ想定内」という感想。本のテーマや書いてあることの軸は「まえがき」に、書き終えたあとの著者自身による感想は「あとがき」に書かれているので、それらの部分だけ本屋で立ち読みしても大体どういう本なのかは見えてくると思います。ご興味ある方はどうぞ。


「日本もっとがんばれ」-- "日本人は自信を持って、世界に向けてもっと発信すべきだ" -- これは大いに同意。ただしここで大きな障壁となっているのが日本人の英語不得手問題で、非常に非常にクリティカルです。英語教育については同書でも言及がありますが、別な意見とまとめて別途述べたいと思います。
なお、日本人が持っている欧米に対する不正確な理解もいくつか指摘されており、これらはためになります。


「東大はすごいのである」-- 立場上仕方がないのかもしれませんが、あまりにもこのフレーズが繰り返し出てくるので、ちょっと鼻につきます。*1まあ、日本ではもちろんトップですし世界的にも認められている大学であることは事実ですが。それと、どこか庶民離れした論調に 〜これはまったく私の個人的な感覚ですが〜 ギャップを感じてしまいました。たしかに著者は大学の縦社会を感じさせないフラットな考え方の持ち主だと思いますし権威主義ではないと信じたいのですが、なんとなーく高みから話しているようで、こう、下界(笑)のことがわかってらっしゃらないのかも、という印象を覚えたのです。いえ、庶民が良くて大学総長が悪いと言っているんじゃないんですけどね。もっともこれ、東大の足元にも及ばない大学に過ごし本業である勉学をまったくしない最低の学生だった自分のヒガみとか後悔が入り混じったせいもあるのかなー、とも思いますけど。


本書は「課題解決一問一答」と副題にあるように質疑応答形式をとっていますが、いくつかの重要な問題について回答になっていない返答をしている点に不満が残ります。一例を挙げると、「東大の卒業生が専業主婦になったら、もったいないと思いますか」への回答として、"職業を持っている(=専業主婦でない)妻を選んだ自分の選択は正しかった" という具合。質問は女性視点でのものなのに、回答は自分中心な観点からなされています。間接的に「(東大を卒業した)女性が専業主婦にならなくて済むような環境を整備すべきだ」とおっしゃっているんだとは思いますが、子育て(という仕事)はどういうものか、子育てと "職業" の狭間で女性は何を悩み苦しんでいるのか、という点を考慮せずに、"職業" を選択した者の立場でしかこの質問を捉えていないことに違和感を覚えました。


なお、おまけとして梅田望夫さんとの対談が付いています。梅田さんの著書を読んでいればとくに新しい話はありませんが、ところどころ二人の会話がかみ合っている部分を見つけては、微笑みながら読んでいました。

東大のこと、教えます―総長自ら語る!教育、経営、日本の未来…「課題解決一問一答」

東大のこと、教えます―総長自ら語る!教育、経営、日本の未来…「課題解決一問一答」

*1:著者は「あとがき」で『日本、日本、東大、東大、と強調しすぎたようにも感じられて、忸怩(じくじ)たる思いを禁じえない』と記しています