ビジョンと本気度と技術力をはかるハイブリッドの選択 - プリウスとSOA


ハイブリッドカーである「プリウス」をトヨタが来年5割増産するというニュース原油高が強く後押ししていることは言うまでもありませんが、年内20万台と言っている車を来年は1.5倍の30万台にしようというわけですから、大変な成長です。


そのプリウスが発電に用いているのは「回生ブレーキ」という方法*1で、同車はこいつによる蓄電とガソリンを使い分けて燃費を上げる努力をしています。ここでは、単純にガソリンの使用量を少なくしてくれるという意味においてプリウスや同種のハイブリッド車に拍手しましょう。カタログスペックと実走行での燃費にどれほどの差があるかは知りませんが、少なくともぼくの車よりははるかに燃費が良いに違いない。(笑)


さて、クルマの世界ではスウェーデンのSAABがたくさんの「発明」(http://www.saab.co.jp/innovations.shtml)をしていることはあまり知られていません。SAAB好きの連中*2は何かにつけてこのことを自慢げに話しますが、いま市場に出回っている自動車が備える安全性や快適性に関するさまざまな機能には、SAABが実用化した(=革新技術の量産車への適用)ものが多く含まれています。上記プリウスのハイブリッド技術との関連で申し上げると、現在SAABが発売している「バイオパワー」モデル(日本未発表)には、バイオエタノール(植物からつくるアルコール)を燃料として使うという画期的な技術が組み込まれています。この「バイオパワー」は、E85と呼ばれるバイオエタノール85%・ガソリン15%の混合燃料でガソリン車をもしのぐ性能を発揮するのですが、ガソリンの消費量が少なくて済むというだけでなく、植物を原料とするエタノールは大気中の二酸化炭素量を増加させないとされており、ディーゼルが広く受け入れられているヨーロッパでもクリーンなエンジンとして高い評価を得ています。ちなみにこのエンジン、エタノールとの混合比率を自動的に検知して適切な動作をするので、たとえば仮にバイオエタノールが入手できなくてもガソリンだけでも動作可能とのこと。(http://www.saab.co.jp/pressreleases/pr20060112.shtml)


SAABではこの技術をさらに進めた「バイオパワー・ハイブリッド」を発表済みで、実用化が期待されています。この新技術は上記バイオパワーとプリウスで採用されているような電気モーター駆動を組み合わせたものとなっており、ガソリンが必要ない(燃料はE100=バイオエタノール100%の予定)デザインをとっています。これが市場に出てくれば、化石燃料を使わない世界初の自動車となります。


ここで無理やり話をITへ持っていきます(笑)。どの時代でも、革新的な技術やアイデアが生まれては消えということを繰り返してきています。ただ、いかに革新的で技術的にすばらしいものでもそれがユーザーに対して「一足飛びに新しい世界へ入る」ことを強いるようなものであれば、広く受け入れられることはまずありません。クルマの世界で言えば「ハイブリッド」はまさに化石燃料の先にある新たなステージへの段階的な移行の途中で生まれた製品ですが、このプロセスはユーザーにもメーカー側にも重要かつ必要な過程です。いま私が関わっているビジネス・アプリケーションの世界でも、「SOA」なるものが数年前から(あるいはもっと前から)言われ続けていますが、どうも理想形が先行し技術中心の議論になっているように思います。エンドユーザーにとっての価値を生み出してこその「製品」なわけで、SOAもアプリケーション・レイヤー(=開発者ではなくエンドユーザーにもっと近いところまでできあがったもの)までを含めて何ががどこまで実現できているかを語り合いたい。プリウスやSAABバイオパワーのような、「革新は続けるけれど現実的な中間段階を都度きっちり製品化しユーザーに提供する」ことは、ビジョン実現へ向けたベンダーの本気度をユーザーに示すと同時に技術力の証明にもなるはずです。


プリウスで思い出すのは発売当時の「21世紀に間に合いました」のキャッチコピー。メッセージそのものがよかったことに加えて手塚治虫さんのキャラが使われていたことも相まって、クルマ広告のキャッチコピーとしては記憶に残るナンバーワンのメッセージです。プリウスのハイブリッド技術に関してはすごいのすごくないとか、専門の方々の間ではまあいろいろな議論があるようですが、私はこの「21世紀に間に合わせた」ものづくりを高く評価したいです。

*1:通常は車を動かすために使っているモーターを仕事がないとき(たとえば減速時)に逆に発電に使ってしまうという技。

*2:私も含めて...