御成門の燕楽(えんらく)から暖簾分けされた池上の『とんかつ燕楽』へお邪魔して来ました。本家燕楽のとんかつかつはおいしかったけれどブログに残すほどのインパクトがなかったのですが、ここ池上の燕楽はいいですねえ。
いきなりなんですが、カウンター越しの調理場の壁にどどーんと「燕楽のこだわり食材」五か条が掲示されています。
燕楽のこだわり食材
ニ、ラード
豚の背脂ではなく内臓を包む腸間膜から搾り出した貴重なラード三、米
長野県の米所駒ヶ根から仕入れた米。農薬を減らし微生物を多く使って栽培したこしひかり四、パン粉
食パンの耳を削り中の白い所だけで作った自家製パン粉五、ポテトサラダ
自家製マヨネーズで作ったよそでは味わえないポテトサラダ
初訪店の今回は、ちょうどこの五か条の正面に座ることになったため、実直そうなご主人がとんかつをじっくり揚げている最中、ずーっと読み返しておりました。と言うか、読み返すことになってしまいました。で、注文したのは「ロースかつ定食」(2100円)。当然、期待は高まります。
かつは非常に小さく浅い鍋で揚げられます。五か条で説明のあった「貴重なラード」は白い塊のまま鍋で溶かしてから使われており、注文を受けてから切ったと思われるロース肉をご主人が丁寧に衣でくるむと、鍋の火を一旦落として静かに静かに鍋へ送り込んでいました。仕事が丁寧。流れるような手さばきは隙がありません。
かつが揚がるのを待つ間、まず最初に自慢のポテトサラダが出てきます。うむ、確かに美味である。自家製マヨネーズが主張することなくポテトを引き立てている。マヨラーにはこのうまさはわからないだろうなあー。
続いてお新香が提供されますが、こいつはとんかつをいただく時まで箸をつけずにおこうと思う。
訪店時に客が少なめだったこともあるのかもしれませんが、適度に緊張感のある静寂が続きました。空気の密度が高いとでも言いましょうか、この雰囲気は結構好きです。そして、職人気質漂うご主人の背中を見ていると自然と自分の背筋も伸びていきます。かなーりいい姿勢で待ってたんじゃないかと思います。
かつを鍋から上げると、今度はご主人自らキャベツを刻み始めます。肉に余熱を通しいている時間を使って切りたての新鮮キャベツを"調理"するたあ、しびれますねえ。
そして待ちに待ったロースかつが登場。
衣の色は薄めでザクザクしてない、ぼく好みの仕上がりである。
断面の肉は中心がうっすらピンクで、とても上品なお顔立ち。
味はすばらしかったです。期待通りです。まろやかで上品、ほのかに甘さのある肉にしつこくない脂身。普段塩は使わないのですが、試しに使ってみたところ、辛味のないタイプでロースかつにマッチしていました。でもやっぱり塩はぼくには強すぎるので残りのかつはソースを微量(1、2滴)落としていただきました。うまい!
ご飯もおいしかったですし、豚汁もこれまたぼく好みのゴボウがほのかに香るタイプ。充実のとんかつタイムを過ごすことができました。
所作の隅々まで丁寧さが染み渡っている人の手によるお皿って、余韻みたいなものが残ります。そんな余韻を感じながら暖簾をくぐって外に出るとき、ああきっとまた来るだろうな、と心の声が聞こえました。