人工中絶の合憲性(合衆国での最高裁判断に寄せて)

「人工妊娠中絶は合憲」とするこれまでの判断を米連邦最高裁自らが覆したというニュースが世界中を駆け巡り、アメリカの「分断」がさらに悪い方へ前進してしまいました。キリスト教的思想も深く根を下ろした今回の「分断」は、「格差」と同じかそれ以上にアメリカ合衆国における深刻な社会問題となっています。

 

まったくの偶然なのですが、いまNetflixで見ている『ブラックリスト』でまさにこの人工中絶の是非を視聴者へ問いかけるエピソードがあったのでご紹介します。(まさに昨日このエピソードを見たところでした。なんというタイムリーな!)

問題のエピソードは、2019年に公開されたシーズン7(本稿執筆時点での最新はシーズン9)のエピソード7『ハンナ・ヘイズ』です。(以下、ネタバレの内容を含みます

 

過去にレイプされ(おそらく州法に基づいて)そのときに妊娠した子を出産した(せざるを得なかった)ハンナ・ヘイズ外科医は、人工妊娠中絶を禁ずる法律制定に関わった3人の男性を捕らえ、神をも恐れぬ行動を起こします。それは、捕らえた3人の男性の腹部に子宮を移植し、組織が定着したことを確認したのちに受精卵を注入、「男性に出産させる」ことでした。しかもその受精卵に使われた精子はヘイズ医師へのレイプ犯のもの。

 

3人のターゲット男性のうち、妊娠中絶に否定的な態度を持っていた牧師はすでに出産を終えていることが判明、残る2人のターゲットは人工中絶を禁ずる州法を定めた州知事(当時)と保守系ロビイストです。ロビイストの子宮移植手術直後にFBIが現場に踏み込むことによって彼の「妊娠」を防ぐことはできましたが、左記の元州知事はすでに「妊娠」していました。

 

事件そのものはFBIの手によって首謀者(ハンナ)や協力者が身柄を確保されたため収束しましたが、その後の元州知事のとった行動がなんとも皮肉なものでした。彼は、人工中絶に反対しそれを定める州法に自身が署名、成立させたにもかかわらず、自分の身に起こった「望まない出産」を避けるため、人工中絶が認められている他州の病院へ出向き、堕胎手術を依頼するのです。

 

このエピソードがいま放映されていたら大きな社会的反響を生んだであろうことは想像に難くありません。