『「劇薬」の仕事術』雑感

f:id:saitokoichi:20190128122550j:plain

 

前・日本マクドナルドCMOの足立光氏が書き下ろした『「劇薬」の仕事術』を読みました。


足立氏については知人からも含め様々ところからすごい人だという噂を耳にしていましたが、その氏が「劇薬」なんて刺激的な言葉を書名に持ってきた本ということでどんな内容なのか、何について書かれているのか、以前から興味アリアリでした。


読む前は、マーケティングのノウハウ的な本なのではないかと想像していたのですが、読んでみると予想とまったく違っていて、すべてのビジネスパーソンに共通する「仕事人としての心構え」を自身の経験をなぞらえて語りかけてくる、という内容でした。平易な文体で非常に読みやすく、著者の人柄や考えていること感じていることがスススーっと胸に落ちてきて、なるほど足立流ってこいうことなのね、と納得感充実感のある読後感を持つことができます。


読み終えてみて最初に思ったことは、この本、社会人経験豊富な人よりも新入社員や駆け出し社会人、場合によっては就職前の学生にぜひとも読んでいただきたい書だ、ということでした。それは、この書に書かれていること=足立氏の持論が、氏が新卒で入社したP&Gで学んだことや経験したことが基礎となっているからです。言葉を変えると、社会人の基盤づくりの時期に何を学び何を考えていけばいいのか、のある種の指南書としても読めるのです。これは、若い社会人には実体験と照らし合わせて多くの学びがあるはずだし、就職先選びや社会人としての将来に迷ったり不安を持ったりしている学生に向けても多くの示唆を与えてくれる内容であることも意味します。


足立氏自身はある種のアウトローな人で、ありていな言葉で言えば天邪鬼、他人が選ばない道を選びたがる性格のようです。かつ、モーレツに仕事に打ち込むパッションとチャレンジャー精神を持ち続けており、転職のたびにあえて業績の悪い、どん底の状態の職場を選び、そこへ「劇薬」を注入していくことを喜びとする、そんな人柄が描かれています。ただし、ここで言う「劇薬」とはその言葉から想像されるような「アブナイもの」ではなく、行き詰った会社を再生させるための、本来は「良薬」と呼ばれるべきクスリです。その基礎は前述の通りP&Gでの経験であり、その後転々とした企業での経験もまた、すべて糧として行く先々で生かしていく、常に向上と成長を続けている氏の生きざまが本書に記されています。


ぼく自身はこれまでマーケティングと名の付く仕事に多く従事してきましたが、そんな経験を持つぼくから見て興味深かったのは、「広報」の重要性に多くのページを割いていることです。P&Gやマクドナルドと聞くと、テレビをはじめとする大量の「広告」への投資をしているというイメージがありますが、足立氏が大切にしているのは広告よりもむしろ広報なのではないか、と思える言葉が本書のあちこちに散らばっています。これは、広告の否定や軽視ではなくて、広報の重視、です。売り手からの直接的な情報発信である広告だけでなく、消費者やその媒介となるメディアにいかに好印象を持ってもらえるか、そして語ってもらえるかを大切にするという一貫した姿勢は、とても説得力があり、納得感のあるものでした。

 

マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す 「劇薬」の仕事術

マクドナルド、P&G、ヘンケルで学んだ 圧倒的な成果を生み出す 「劇薬」の仕事術

 

 

はてなダイアリーの終了について


このブログの母屋である『はてなダイアリー』がサービス修了することがアナウンスされています。2019年1月28日には更新が停止され、2月いっぱいに自身で『はてなブログ』へ移行するか、3月以降自動的に移行されるのに任せるか、あるいははてな以外のサービスを利用するなり自力でブログを立てるか、という選択が求められます。


ぼく自身は、2006年7月からこのはてなダイアリーを利用し続けていますので、もう12年半もお世話になっていることになり、それなりに愛着があったりします。無料のサービスでしたので、大変感謝もしています。


今後は『はてなブログ』に引っ越します。別なブログを探すのが面倒だというのが正直なところですが、これまでお世話になったはてなさんに今後もよろしくお願いします、っていう気持ちも少なからずあります。黙々と、粛々と、世のため人のため自分のために、拙文を記していきたいと思います。

『西郷どん』。よかよか


西郷どん』、終わりましたねー。個人的には涙する場面がほとんどなかった一年でしたが、かといってつまらなかったわけでもなく、近代ニッポンの黎明期を太く生きた人々をそれぞれのストーリーで語り続けたよい大河だったと思います。一年を通じた起承転結というか、流罪期の展開もうまく機能していたと思うし、抑揚がついたバランスのとれた構成でした。


一方後半3ヶ月くらいは、西郷が主役なので仕方ないのですが、大久保の苦悩にもっと焦点を当てて、西郷の苦悩との対比をよりくっきりと描いてくれるとさらに良かったかなー、と感じています。ここ、クライマックスの連続ですから。


しっかし、渡辺謙島津斉彬)の存在感は凄まじいですね。斉彬亡き後は渡辺謙を受け止める役者が最後まで登場しなかった感が残ります。鈴木亮平も体型含めた役作りに相当の気合いが入っていたし、脇役陣もすばらしい方々ばかりでしたが、どっしり安定感のある存在という意味では渡辺謙を前半で失ったのは大きかったです。『直虎』における小林薫南渓和尚)みたいな存在が年間を通じてあると、物語の背骨がシャキッとしたと思います。そういう意味では、島津久光を演じた青木崇高がそのポジションにいたのかもしれません。


まだ100年ちょっと前のお話なんですよね。この人たちの描いた物語の上に、ぼくらは生きているわけで、感慨深いです。

日本産の魚がうまいシンガポールの『黒鮪』


シンガポールへの出張で毎日現地の食事を楽しんでいたのですが、さすがに5日目になってお腹が疲れてきた感じで、そろそろ油とか匂いの強いものは控えたいな、、、と思っていたところ、滞在しているホテルの近所に「黒鮪(Kuro Maguro)」という和食店を見つけたので入ってみました。


シンガポールには和食や居酒屋ラーメン屋うどん屋などなど、日本の食事を出す店は多くあるものの(というか、日本に限らず様々な国の料理がそこかしこにあります)、食材や調味料、調理法の関係で日本でいただくものと比べて「これは違うなー」という店が多いためなかなか入りづらいものですが、今回の店はウェブでちらっと見る限りまともそうだったので思い切って一人で入店してみたわけです。


結論から言いますと、かなりクオリティー高かったです。丼物が豊富で一品物も色々なものを取り揃えてあり、どれも日本の三崎港から週三回空輸しているという「日本産」の魚を使っているようで、味はほぼ日本でいただくものと変わりませんでした。以下の写真は「黒鮪三食めし」といって、まぐろの大トロ、中トロ、赤身が乗った丼物です。お米はほどよくすし酢が利いており満足のいくもの。


冒頭の写真は、「温玉うなとろ」という一品物で、細かく切ったうなぎ(なぜかやや固め)に刻んだ山芋、その上に温泉卵と鮪の剥き身が添えられていて、おつまみとしてはちょうどいい感じでした。


ホッとする枝豆や、


山芋蟹酢もいただきました。酢の物って味付け難しいと思うんだけど、わかめと相まってばっちりなお仕事。この店、まぐろに比べて蟹は割安のようです。


ぼくが今回お邪魔した「黒鮪」は地下鉄のタンジョンパガー(Tanjong Pagar)駅の真上にあるお店でしたが、兄弟店(おそらくそっちが「兄」)がサンテックシティに「鮪問屋三浦三崎港」という名前で営業しています。こちらには寿司もあるようで(黒鮪には寿司はありませんでした)、メニューも豊富そうです。食材は同じだと思うので、おそらくこちらの店もよいクオリティーなのではないでしょうか。


お店のホームページはこちら

大戸屋でPutmenuを試してみる(Azureなんだぞ)


オフィス近所の大戸屋がリニューアルオープンしまして、注文は卓上のタブレットで、会計も無人精算機を使う形態に大変身。店員の仕事は客の席への誘導(と水出し)、注文品のデリバリー、あとはセルフシステムに戸惑っている人のサポート、という具合になりまして、準セルフサービスなお店となりました。テクノロジー業界人としては興味津々な接客システムである一方で、店員との触れ合いが激減してしまい一個人としてはなんだか少しさびしさを感じたりしています。


その大戸屋、「注文0分、会計0分」とぶちあげる「Putmenu」というサービスをリニューアルオープンとともに採用。ちょっとおもしろそうだったので、さっそく試してみました。


Putmenuとは、専用のスマホアプリからオーダーするメニューを事前に確定させておいて、店内で席についてから所定のワンアクションをすると]「注文」と「決済」が同時に完了するというサービスです。Putmenuじたいは大戸屋とは直接関係ない第三者によるサービスで、ボクシーズという会社が開発した飲食店向けサービス&アプリのことです。最近ではイオンモールが採用したそうで、すでに使ったことのある方も少なくないのではないでしょうか。


順を追って使い方のご説明です。


1. 専用アプリをダウンロードする
アプリストアで「putmenu」で検索するとすぐ出てきます。iOSAndroid対応です。


2. 決済準備設定をする
クレジットカードやその他の各種オンライン決済やキャリア決済にも対応。事前に決済情報を設定しておきます。(例: クレジットカード情報など)


3. 注文をする
アプリを起動すると、GPSと連動して近所でPutmenuが使える店のリストが出てきます。オフィスでアプリを使ったところ真っ先に大戸屋が飛び出してきました。



店を選んだあとは、表示されるメニューから好みのメニューを選択、「カート」へ入れます。お買い物サイトで一般的な「カート」、飲食店でカートと言われると微妙に違和感を感じますが、ま、そんなことは気にしないでおきましょう。


ということで、オフィスの席にいながら、今日の食事を注文することができました。(厳密にはこの時点では注文は確定していないのですが)


4. お店に行って注文を確定させる
お店に入って席に着くと、Putmenu対応のお店では各テーブルのところに「@」を左右反転させたようなシールが貼ってあります。本ブログ冒頭の写真がそれ。このマークの上にスマホを置いてアプリの「カート」から「注文する」ボタンを押すと、注文情報にテーブル番号がくっついてキッチンへ連絡が行く仕組みになっています。このマーク、PaperBeaconという技術を使ってテーブル位置を特定しており、スマホとはBluetoothで通信しているようです。(ですので、スマホ側ではBluetoothをオンにしておく必要があります)


以上でおしまい。本当に注文が通っているのか最初は不安になりましたが、ほどなく、注文したメニューが届いて一安心。通常のセルフ大戸屋の場合は注文品と一緒に注文伝票が届くのですが、Putmenuを使った場合はすでに決済が終わっていますので、レシートが届きます。食べ終わったら席を立ってそのまま店を出るだけ。なんだかAmazon Goでの経験を思い出します。無銭飲食の嫌疑をかけられたときのためにレシートは捨てずに持っておきましょうね。


余談ですがこのPutmenu、Microsoftクラウド「Azure」で動いています。こんなブログとかイオンでの事例とかありますので、ご参考まで。

アマゾンとマイクロソフトとコンカーの本


少し前のことですが、比較的同時期にアマゾンとマイクロソフトとコンカーという三つのテクノロジー企業に関連する書籍が出版されまして、IT業界に身を置くものとして少なからず興味は持ちましたので、並行して読み進めておりました。最初のふたつは、第三者から見たそれぞれの会社の「今」について、最後のひとつは当事者による書下ろしです。それぞれ特徴があっておもしろかったので、備忘録としてメモしておくことにします。ちなみにこの三社、いずれも本社がシアトルにあるという共通点があります。


アマゾンの本『amazon 世界最先端の戦略がわかる』は、マイクロソフト日本法人の元社長の経歴を持つ成毛眞さんによる、煽りに煽りまくった「アマゾン半端ないって」本。もはや何の会社かわからなくなってきた怪物企業アマゾンをあの手この手でオーバーアクションともとれる筆力で書き上げた汗ほとばしる書です。ただ、大げさな書き方ではあるもののそこにあるファクトについては大きく踏み外してはおらず、アマゾンという会社がどんな性質を持っていて業界業種の壁を破壊しながらいかほどの強大な潜在力を保ち伸ばし続けているかを知っておくにはよい本だと思います。この本を読んで盲目的に「アマゾンすげー」と受け取るのではなく、21世紀のこの世界においてこれほどの破壊者が存在しているということを冷静に見つめ理解するきっかけとするのが良いでしょう。


マイクロソフトの本『マイクロソフト 再始動する最強企業』は、変化や浮き沈みが激しいテクノロジー業界において今なお「最強企業」と呼ばしめるポジションとパフォーマンスを挙げている老舗企業をあらためて見つめなおしてみた本。ぼくの世代からするとマイクロソフトはBASICの会社でありMS-DOSの会社であり、WindowsとOfficeを主軸とするソフトウェア企業という印象が強いのですが、いまや12万人の社員から10兆円もの売り上げを輩出するハード、ソフト、そしてクラウドが見事に融合した大企業であり、今なお「変化」を続けている存在であるということが本書を通じて理解することができます。40年以上にもわたってどうして業界トップを走り続けられるのだろう、ということにほんの少しでも疑問や好奇心を持たれたならば、ご一読をお勧めします。いちおう私も「中の人」の端くれですが、今のマイクロソフトをまんべんなく捉えて表現したバランスの良い書だと思います。


コンカーの本『最高の働きがいの創り方』は、同社社長である三村さんによる「コンカーってどんな会社?」を経営者観点から語った本。働きがいのある会社ランキング1位に輝く同社の「働きがい」はどのような考えに基づきどのような実践を通じて作り上げられてきたものなのか、それを創ったご本人の筆から知ることができる貴重な書です。その中には、成功談ばかりではなく、いかに失敗してきたか、その失敗から学びどのような改善と改革を進めてきたのかがリアルにつぶさに記述されており、著者三村さんのお人柄が伝わってくると同時にコンカーという会社の社風が垣間見えるように感じられます。同社は働きがいという無形のものだけでなく、実際のビジネスにおいても非常に高い成果を上げ成長を継続しているという優れた側面を持ち合わせており、そういったことを含めて「コンカーってどんな会社?」にこたえる本になっています。同様に社員がはつらつと働いているサイボウズというIT企業の社長である青野さんが書かれた『チームのことだけ、考えた。』と比較しながら読むのも楽しいでしょう。


amazon 世界最先端の戦略がわかる

amazon 世界最先端の戦略がわかる

マイクロソフト 再始動する最強企業

マイクロソフト 再始動する最強企業

最高の働きがいの創り方

最高の働きがいの創り方

知的なプーさんと芸術が爆発するももの話(『高嶺の花』)


毎回、物語の世界に完全に引きずり込まれていたことに見終わった後に気付くという没入感を味わっていた『高嶺の花』(日テレ)が終了しました。没入要因の大半は、主演の二人のリアル感と人間的魅力でした。


結婚式当日の破談による喪失感と自失感、家元継承継問題で揺れる心、亡き母の思いと自身の血筋に対する疑念、芸術家としての自分を取り戻せない挫折と焦り、、、様々なプレッシャーや精神的不安定さの中に身を置きながらも、もう一人の人格が商店街の自転車屋の純粋な愛情に惹かれ頼ってしまう、そんな月島ももを演じた石原さとみ。表面的にはしがない自転車屋だけれども、心は純粋で、物静かで知的であり、芸術への理解もある優しい不細工男、風間直人を演じた峯田和伸。この2人が本当に生き生きとして、リアルで、魅力的で、知らぬ間に引き込まれていっている感じでした。


最終回がハッピーエンドすぎると言えなくもないですが、最終回の俎上のシーンで見せた、華道家元という超高格式の圧力から解き放たれたももの表情は、この最終話にしてようやく見ることのできた彼女の自然な笑顔であり、観るものに安堵と幸せ感を与える、見事な「変身」でした。脇役のみなさんも、この奇妙なラブストーリーをいい感じに盛り上げてくれていました。


あり得ない設定(いや、テレビドラマという観点からは十分あり得る普通に軽い設定とも言えるけど、その軽薄さと裏腹にストーリーは実に真剣!)にリアル感と人間的魅力とを注入して、最後は涙腺を緩ませてくれる物語に仕上げた出演者とスタッフに拍手! 絶妙なタイミングで流れてくるプレスリーの『ラヴ・ミー・テンダー』が後を引く秀作です。